「体験型エンタテインメント 2010年 総まとめ その1」「その2」では、国内の事例に絞って紹介しました。しかし、ARG の本場は英語圏です。日本発で、ワールドワイドに通用する ARG を作ってやる!という視点をぜひとも持つべきでしょう。とはいえ、海外 ARG のまとまった情報は日本語ではあまりありませんでした。
海外における ARG の2010年のまとめとして、ARGNet の記事「A Look Back at the Year in Alternate Reality Games: 2010 Edition」が非常に良くまとまっています。翻訳の許可をいただきましたので、以下にご紹介します。
なお、日本の読者に合わせて、細かすぎるところを削ったり、逆に説明を加えている部分があります(動画の埋め込みは転載にあたって行ったものです)。リンクも、英語が苦手な人でも参照しやすい場所に絞って整理しています。英語が読める方は、ぜひ原文を当たってください。
毎年の終わりに、私 (Michael Andersen) は時間を取って ARG 界隈の評価をすることを趣味にしています。昨年は、2009 年に最も話題になった ARG を幾つか取り上げたリストを作ることで、この不健全な衝動を満たしました(実は、このリストは2度もチェックしました)。今年は、この業界が直面している幾つかのトレンドに着目しようと思います。合わせて、あなたが見過ごしたかもしれない、成功したキャンペーンの見せ場をいくつかご紹介しましょう。
業界の状況
欧米でのARGはまだ進化しています。特に、2010年は「Transmedia Storytelling」や「Gamification」といったバズワードも取り込みました。何人もの著名クリエータが自分の肩書きに Transmedia という単語をつけたり、Transmedia を行うと明言しています。一方で、TED で Jane McGonigal 女史が行った Gamification に関する講演では、世界中のゲーマーの力を社会善 (social good) に役立てるというアイデアが語られ、ARGのシリアスゲームへの応用への関心を再燃させました。
(訳注)Gamification は日本ではまだあまり知られていませんが、シリアスゲームジャパンの記事に良くまとまっています。2011年1月には Gamification Summit 2011 が開催され、日本語でのレポートがgamification.jpに上がっています。
Jay Bushman は、Cloudmaker として過ごした時間に関する記事(英文記事)を書き、産業形成の状況を明らかにする素晴らしい仕事をしました。ちなみに、Cloudmaker とは、ARG というジャンルを定義した映画「A.I.」の ARG「The Beast」のプレイヤーたちの愛称です。彼は、ARG 業界の状況は、トーキー映画の魅力を世に知らしめた「ジャズ・シンガー」が公開される前の、1926 年頃の映画業界に当てはめることができると述べています。Bushman 曰く、「ジャズ・シンガーは音付きの最初の映画ではないものの、その利点を明瞭に示し、音をつけることこそが映画の進むべき道だと示した最初の映画だった。」
プロモーションツールとしてのARG
ARG 業界は、例によって未だにプロモーションツールとして日々の糧を得ています。2010年はいくつもの目立ったプロジェクトがありました。
映画
2010年は、すでに確立された手法でのARGプロモーションが行われました。JJ Abrams は、人気だった「Cloverfield」のバイラルプロモーションに続いて、低予算映画「Super 8」のストーリーのヒントとなる一連の謎めいた手がかりを公開しました。Cloverfield では Slusho という架空の飲料を中心に展開しましたが、Super 8 では、Rocket Poppeteers という架空のアイスキャンディを使用しています(ラビットホールに関する GIGAZINE の紹介記事, Super 8 の英語のまとめ Wiki)。
同様に、WIREDが行った人狩り(manhunt)ゲーム「Hunt for Evan Ratliff」の人気を利用して、映画「Repo Men」のプロモーションが実施されました。応募に応じた4人のランナーのうち、2人は1ヶ月間逃げ切り、賞金7500ドルを手にしました。
また、12月上旬には、映画「Tron: Legacy」のプロモーションとして、2009年から実施されていたARG「Flynn Lives」が完結しました。制作会社の 42 Entertainment は、カンヌ国際広告祭のサイバー部門グランプリを獲った「Why So Serious」と同様に、今作でも数ヶ月ごとに大量のコンテンツを投入するという手法で長期間の運営を行いました。
2009年のComic-Conでは、劇中のゲームセンターを再現し、そこへプレイヤーを誘導するイベントが行われましたが(日本語での紹介記事)、2010年のComic-Conでは、やはり劇中に登場するクラブ End of Line Club が再現され、最大の盛り上がりとなりました。
「Flynn Lives」では、コイン・ポスター・ピンズ・Tシャツ・ステッカー・バッジ・絵はがきといったご褒美が頻繁に出され、それらに隠された謎が鍵となって、さらに物語が進んでいく、といった形でプレイヤーは物語と関わっていくようにデザインされていました。Facebook アプリを提供して、ゲーム内の進行状況に応じてもらえるバッジを、各プレイヤーが飾れるようにしていたのも特徴です。(英語でのまとめ動画(下の埋め込み動画), Flynn Lives の英語のまとめ Wiki)
テレビ
2010年、テレビネットワークは全般的にARGに対してしりごみしていたようです。ただし、いくつか重要な例外があります。まず、テレビドラマ「スーパーナチュラル」の第5シーズンのプロモーションとして、位置情報を用いたパズル探索が行われました。一方、Anthony Zuilker のトランスメディア書籍「Level 26」の中で、テレビドラマ「CSI: 科学捜査班」への言及が行われる、といったこともありました。また、カナダではテレビシリーズ「Animism: The Gods' Lake」のためのARGが行われました。制作元の Zeros 2 Heroes Media では、新プロジェクト「Are You Awake」でも同じソーシャルプラットフォームを流用しています。オランダの VPRO は、エネルギー問題を扱ったドキュメンタリー番組「Energy Risks」に若者に興味を持ってもらうため、「Collapsus」を制作しました。
Showtime のドラマ「Dexter」の第5シーズンのプロモーションARGは、狡猾な連続殺人鬼 Infinity Killer とプレイヤーが対決するというものでした。Comic-Con での殺害現場の調査イベントで幕を開いたゲームは、2ヶ月の後、ゲームの主要人物の2人のどちらを殺すかをストリーミングのフィナーレ中にプレイヤーに選択させるイベントで幕を閉じました。このARGは、テレビ番組の登場人物の紹介をするというよりも、次シーズンのプレビューとして機能しました。ARGでプロモーション対象を露骨に宣伝しないという点で、古きARGを思い起こさせます。
テレビゲーム
2010年も引き続き、ARGの仕組みはテレビゲームにも潜り込んでいきました。Maxis Games は「Darkspore」のリリースに向けて簡単なARGを実施しました(ゲームサイト)。また、Activision も「Call of Duty: Black Ops」のARG、GKNOVA6を行ってゾンビモードのチラ見せを行った他、幾つかの隠し要素の解除コードを謎の中に隠すといったことを行っています(doope!での日本語記事)。
しかしながら、2010年一番のサプライズは Valve からでした。人気FPS「Portal」の無料アップデートにこっそりと驚くべきコンテンツを忍び込ませたのです。プレイヤーがゲーム内でラジオを特定の場所に持っていくと、画像をテレビ放送の搬送波としてエンコードした音声が流れだします。この情報から GLaDOS の設計者のファイルに辿り着き、最後には「Portal 2」へと繋がる Portal の新しいエンディングがアンロックされたのでした(doope!での日本語記事)。
最後に、12月に PLAYSTATION 3 からアクセスできる仮想空間 PlayStation Home において、「Xi Museum」が始まりました。ここは nDream が PlayStation Home 向けに 2009 年に提供し、75万人以上が遊んだという ARG「Xi」への恒常的なアクセスを提供します。
スニーカーとの出会い
nDreams といえば、Reebok と組んで、F1レーサーのルイス・ハミルトンが裏で盗まれた美術品を取り返す仕事をしているという設定のARG「Secret Life」を作りました。11月にロンドンで行われた最終イベントでは、ルイス・ハミルトンからのメッセージを上映した後に、ロンドンの街中でトロフィーを探す探索が行われました。8ヶ月の期間で、154以上の国から、63万人以上のプレイヤーが参加したとのことです(映像を含む英語のまとめ記事)。革新的なゲーム体験を提供したスニーカー会社はなんと他にもあります。4月に Nike はロンドンをゲーム盤へと変えました。プレイヤーは指定された電話ボックスの間を走り、領土を獲得し、バッジを得るという勝負を行いました(YouTube のチャンネル)。
出版
出版業界は、フランチャイズの強化の方法として、トランスメディア書籍を喜んで受け入れているようです。Scholastic は「サーティーナイン・クルーズ」の全10巻を8月に完結させた後、追加の6巻の刊行を告知しました。Anthony Zuiker は引き続き、「Level 26: Dark Prophecy」にて、彼の主人公 Steve Dark を危険な状況に送り込み続けています。また、Patrick Carman's PC Studios は「Skeleton Creek」シリーズや「Trackers」といったマルチメディアコンテンツを猛烈な勢いでリリースしました。Smith & Tinker は、Carman のリリーススケジュールに張り合って、書籍/ボードゲームの「Lost Souls」や書籍/テレビゲームの「Nanovor」両フランチャイズを発表しています。
携帯機器と位置情報
技術の進歩により、トランスメディア書籍はより一般的になってきており、さらにトランスメディアノベルがアプリになる流れも生まれました。書籍版がベストセラーとなった「Cathy's Book」は、iPhoneアプリになりました。物語を膨らませた写真や送り状などの数々の付録の手がかりは、デジタル化されています。本の内容を拡張する試みは他には「サーティーナイン・クルーズ」や「Level 26」で行われています。
また、位置情報を用いたゲーム要素といえば、QRコードや dead drop(秘密の受け渡し場所)が相変わらず ARG の実世界要素として使われて来ましたが、そんな中で SCVNGR が2010年の真の勝者として現れました(TechCrunch の日本語記事)。SCVNGR はストーリーデザインへの応用性が高く、ニューイングランド・ペイトリオッツによる「Help Vince」、Showtime による「Dexter Game On」、さらにはスミソニアン博物館の「goSmithsonian Trek」といったゲームでも利用されました。
よりローカルなものとしては、スミソニアンアメリカ美術館が館内を物語の舞台として旗を集める「Pheon」というパズルベースのゲームを開始しました。また「Accomplice: The Show」はロンドンの体験を追加しました。そして、5-W!TS プロダクションはマサチューセッツのショッピングセンターで「Espionage」というスパイアドベンチャーを行いました。
シリアスゲーム
二つの大きな力が、社会善 (social good) 促進を目的とした ARG に向かいました。まず、Jane McGonigal 女史が世界銀行と共に作った「Urgent Evoke」は、アフリカでの起業の促進とアイデアの醸成を目的としたソーシャルネットワークであり、プレイヤーのアイデアを評価するためにワシントンDCでサミットも行いました。「Urgent Evoke」は確かにゲームとしての仕組みは弱く、近未来の世界的な問題に取り組む実務チームを描いたコミックが物語の中心を担っていました。
もう一つの流れが、ドラマ「Heroes」の制作総指揮者 Tim Kring が Nokia と共に制作した「Conspiracy for Good」です。この ARG はロンドン市街でプレイされました。この ARG は、まず第一にエンタテインメントを目的としたものでしたが、Kring は物語の中に慈善的な冒険を織り込んでいます。ゲームの一番の盛り上がりは、オペラ歌手、ボリウッドのダンサー、そして無料で配られた Nokia の電話キットを使った様々なスパイ活動を特徴とする4つのリアルイベントでした。ゲームの過程で、プレイヤーは Kids Company, 世界の医療団, READ International などの慈善団体を含む様々な組織を助けました。「Conspiracy for Good」は苦心の末、ゲームプレイと福祉活動のバランスを完璧に取った作品となりました。(英語のまとめ動画(下の埋め込み動画))
会社のトレーニング目的の ARG 利用は、2010年、より宣伝されました。Cisco は自社のバーチャル展示会の GSX の2年目の取り組みとして、No Mines Media 制作の ARG「The Hunt」を実施しました(英語のまとめ動画)。一方で、Dimension Data も同様のカンファレンスで「State of Grace」を実施しました。また、Tandem Learning もこのトレーニング目的のARG制作競争に参入し、「Dr. Strangelearn's Learning Laboratory」を制作しました。
独立系 ARG
関連製品もスポンサーもなしで、独立系 ARG はどうやって実現したらいいんでしょうか。例えば、「Interdimensional Games」を取り上げてみましょう。このゲームは、個人ごとの物語の進捗に応じて内容が変わる素晴らしい Web インターフェイスを持っており、頻繁に更新しています(ゲームサイト)。
もちろん、こうしたプロジェクトの開発は困難なことも多いでしょう。だからこそ、コミュニティのサポートは常に励ましになります。ゼルダの伝説の幽霊カートリッジにまつわる都市伝説の草の根ゲームが、制作者のリソースの問題で中断されないといけなくなった時も、ファンはさらに力を入れ、翌年の物語の進捗に貢献しました。さらには、「Socks, Inc.」のように開始前に助力を求めるプロジェクトさえあります。Jim Babb は、処女作で評判の良かった愛を探す段ボールロボットに関する ARG から離れ、おもちゃ工場で働くソックス人形の新しいゲームの資金を集め始めました(Kickstarterでの資金調達の動画)。このプロジェクトはすぐに目標だった6000ドル以上を集め、ARGFest や Come Out & Play、IndieCade などのイベント会場でゲームのプレビューを行っています。
しかしながら、宝探しゲーム「We Lost Our Gold」が示したように、全てのパペットが資金を必要としているわけではありません。実際、この作品のコミカルな Web ビデオに登場する4体の海賊人形(うち1体は忍者)は、実に1万ドルをニューヨーク市のどこかに置き間違えてしまったのです。宝の場所のヒントはビデオに隠されています。MSNBC のニュース番組に登場するなど、注目を集めましたが、未だに宝は誰にも見つかっていません。
さて、お次は?
2010年は、タイムズスクエアで人形の海賊が街頭インタビューを行ったり、ボリウッドのダンスパフォーマンスがロンドンの街中で行われたり、国まるごとの人狩りが行われたり、テレビゲームのエンディングが書き換えられたり、映画の中から抜き出してきたようなパーティーが行われたりしましたが、疑問は残っています: 2011年は何があるでしょう?
その答えの大部分は未だ神秘のベールに隠されています。しかし、幾つかのヒントはあります: サンダンス映画祭でのトランスメディアのホラー体験、巨大なゲーム盤へと変貌したマンハッタンの市街、そしてニューヨーク公立図書館での忘れえぬ夜。
もっと知りたい? それなら、ARGNet をまたチェックしてくださいね。
補足情報
原記事のコメント欄には、この記事から、2010年の主要なARGの幾つかが漏れているとの指摘があります。フランスの「Faits Divers Paranormaux」、オーストラリアの代替現実ドラマ「Bluebird AR」(一連の動画, インタラクションの設計図のPDF(!))、ドイツの「Die Zeit Wird Knapp」と「Alpha 0.7」など、各国で ARG は実施されていたようです。また、ディスカバリー・チャンネルのテレビシリーズ「The Colony」の Facebook と連携したプロモーション「JoinTheColony.com」や、Ministry of Argon ARG シリーズの「Fifteen Days of Darkness」などを推す声もありました。付録:英語情報源について
記事の翻訳は以上ですが、最後に、英語での ARG の情報源について触れておきます。
まず、ニュースサイトとしては、ARGNet を押さえておけば、まず問題はありません。流量が多くてもいいならば Web Series Today の ARG タグ をウォッチしていると漏れが少ないかもしれません。プレイレポートなどは後述する Wikibruce の blog 部分に載ることもあります。また、更新頻度は低いですが、IGDA 本体の ARG SIG の blog ARGology でも貴重な情報がときどき掲載されています。
実施されている ARG の一覧は、ARGNet の Now Playing を見るといいでしょう。各 ARG の細かい内容を知りたい場合は、ユーザによるまとめ Wiki が参考になります。Wikibruce が、ARG プレイヤーのために Wiki を提供しています。現在アクティブな Wiki は、トップページの一番右の柱に列挙されています。また、ライブで状況を知りたい場合は、ARG プレイヤーが集う掲示板を訪れてみてください。最も大きなコミュニティは、UnFiction というサイトの unforum です。人気のある ARG では、何万件もの投稿が活発に飛び交っている様子が分かるかと思います。
何かと情報が少ない海外のARGですが、ARG情報局では、今後も出来るだけフォローしていきます!
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