2024年2月6日

体験型エンターテインメントの現在と未来2024



2024年1月13日にNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の2024年新年会が行われ、そこでSIG毎のライトニングトークも行われました。
SIG-体験型エンターテインメントも「体験型エンターテインメントの現在と未来2024」というテーマでスライド発表を行いました。本稿はそのスライドを補足しながら紹介したいと思います。
なお、スライド全体はドクセルに登録していますので必要な方はそちらをご確認ください。


また、スライドは各担当で手分けして作成したこと、また扱うジャンル範囲がかなり広いので情報やフォーマットや情報に偏りがあることご了承ください。各スライドの担当は以下の通りです。
  • 脱出ゲーム/謎解きゲーム  [執筆:南晃、田中宏明]
  • ARG(代替現実ゲーム)[執筆:石川淳一]
  • XR(AR/VR/MRなど) [執筆:池田奈美]
  • マーダーミステリー [執筆:石川淳一]
  • イマーシブシアター [執筆:石川淳一]
  • その他/全体構成 [執筆:石川淳一]

全体の状況



全体の状況としては、やはり新型コロナ渦を乗り越えて、このジャンルが再び活発な動きを示してきた点があります。
体験型エンターテインメントはどうしても実際の接触が避けられないジャンルのため、新型コロナの影響は大きく、ここ数年は大きなダメージを受けたり、せっかく活性化しそうになったジャンルが足踏みを余儀なくされたりする状況が続きました。しかし、2023年はようやく開催に支障のない状況が生まれ、本格的に回復から成長の流れが見えてきた感があります。
また、その動きに連動するかのように、ジャンルによっては今までなかった大資本の参入による大規模化の動きも出てきています。

脱出ゲーム/謎解きゲーム


脱出ゲーム/謎解きゲームは新型コロナ前からある程度確立されてたジャンルであることもあり、そういう意味では新型コロナのダメージが最も大きかったジャンルですが、店舗公演の開催はほぼ新型コロナ前の状況に戻ってきました。(売上的にはまだ回復しきれていない所も多いようですが)
また、新型コロナ対策として増えていた「オンライン謎解き」が、ライブ公演をオンライン経由で行うタイプから、パッケージを使ってオンラインで行うタイプにシフトしてきており、脱出ゲームの新しいジャンルとして定着した感があります。
更に今までどちらかといえばアマチュアインベントとして行われていたフェスにも企業が参入する流れも出ており、ここにも大規模化の流れがでてきています。


今回のスライドで重要なトピックの一つが、2015年以来ひさしぶりに脱出ゲームの売上規模を算出したことです。最新の情報を提供することだけでなく、2015年の数字が一人歩きしていた状況もあり、その補足修正をすることも重要でした。

もともと、SIG-ARG謎解き分科会が2015年7月に「謎解きイベントカンファレンス2015夏」で発表したデータそのものが補足や修正を必要とするものでしたが、いつの間にか「500億円」といった数字がどこかで出来上がって一人歩きしている状況を是正したかったのです。

まず「謎解きイベントカンファレンス2015夏」で出した市場規模の数字は500億円ではなく400億円です。(どこで500億円という数字が出るようになってしまったのかはよく分かりません)
この数字に注意しなければならないのは、経済波及効果含めた市場規模であり、更には予測値でしかなかった事です。当時その点をしっかり説明しなかった為に、その数字だけが引用され、都合のいい数字に修正されていって一人歩きしてしまいました。
そもそも2016年1月に行われた「謎解きカンファレンス2016冬レポート」では市場規模そのものも300億円に下方修正していますが、その数字はまったく参照されていないようです。

2015年のデータに対して、今回発表した金額は売上規模として業界上位6社の売上をベースに、その他団体・イベント等の推計値を合算したものとなっており、ブレが起きやすい経済波及効果は含めないかなり手堅い数字となっています。一見、市場が大幅に小さくなったように見えますが、そもそも数字のベースが変わっていることにご注意ください。
このあたりの詳しい説明については、SIG-体験型エンターテインメント副世話人でもある田中宏明のTwitter投稿が分かりやすいので、そちらも参照いただければと思います。



今後の予測についてはスライドにある通りで補足する点はあまりありません。
脱出ゲームが一般に認知されていく状況の中で、この業界でもジャンルを超えた拡大や再編が行われていくのではないかと思います。

ARG(代替現実ゲーム)


ARGは何といっても『Project:;COLD』シリーズの成功によって、国内のARGが活性化されたことが大きいです。
日本におけるARGは2010年~2015年頃をピークに、ジャンルとして根付かないまま一度衰退していました。しかし、『Project:;COLD』シリーズが、特に今までARGを知らなかった層を掘り起こすことに成功したことで、それに引っぱられるように他の国産ARGも増えてきています。

逆に言えば、2014年は『Project:;COLD』の新作が予定される中、ジャンルとしてARGが日本に初めて根付くのか、それとも『Project:;COLD』の成功のみで終わってしまうのかの重要な年ではないかと考えています。
『Project:;COLD』以外のARGがどのくらい登場し、認知されるかが試される年となりそうです。

XR(AR/VR/MRなど)


XRについては技術先行だった状況から、ようやく物語世界と現実世界を融合させる手法として成熟してきた感があります。
以前はXRであること自体がアピールポイントだった例も多かったのですが、2023年は「どんな体験ができるか」にフォーカスすることが多くなってきていると思います。


XRはどうしても技術やハードウェアに影響を受けやすいジャンルですが、それは2024年も変わらない部分はあります。特にヘッドセット関係はApple社のVision Pro発売の影響もあって、再び活性化の動きがあり、それに伴って一般層にどこまで浸透するか注目されています。
これらの動きがコンテンツとして結実するには少し時間がかかるかもしれませんが、体験型エンタメとしてのXRは今後数年も引き続きかなり激しい動きがあるのではないかと思います。

マーダーミステリー



マーダーミステリーは体験型エンタメの中で、ここ数年一番もっとも伸びたジャンルの一つです。そもそも新型コロナ前から拡大する動きはあったのですが、新型コロナ期で店舗公演が抑制された時期はオンライン型が一般化し、更にアフターコロナを受けて店舗公演も再び花開いた感があります。
特に最近はYouTube経由など、従来のコア層以外からの参加が増えてきた事で一般層への認知がかなり進んでいるようです。


2024年以降の予測としては、やはり一般層への拡大がどこまで進むかが鍵となります。
株式会社これからミステリーのような、市場の大幅拡大をアピールする企業の参入もあり、またマーダーミステリーから派生したジャンルや作品も増えてきています。そういった追い風で今後の拡大がどこまで進むか注目です。

イマーシブシアター



イマーシブシアターも2023年は大きく躍進した年となりました。
有志でまとめている国内のイマーシブシアター公演一覧では2022年に比べ公演が倍近く増えています。新型コロナが落ち着いた事もありますが、やはりイマーシブシアターで評価の高い作品が2022年あたりから複数現れ、それらの評価を受けて開催しやすくなった2023年に公演や参加者が大幅に増えたことが大きいと思います。


2024年注目のトピックは何といっても「イマーシブ・フォート東京」が3月に開業することでしょう。USJを立て直したことで名高い森岡毅氏率いる株式会社刀が手がける常設型のイマーシブシアターです。
特に単体の公演ではなく常設型、しかもテーマパーク的なアプローチという点もあり、今までまったくイマーシブシアターを取り上げなかった媒体までニュース広がっていて、一般層の認知が大幅に広がっています。
逆にいうと今までとまったく違う層が大量に流れ込むことが予想され、どのような影響がイマーシブシアター全体に与えるか注目です。

その他



その他としてはほぼスライドにある通りです。
体験型エンタメは非常に幅広いジャンルであり、その中から次世代の新しいジャンルが生まれてくることを期待したいと思います。

まとめ

新型コロナの反動もあって、現実空間で自分だけの体験ができる体験型エンターテインメントは更に注目されているのを実感します。大手資本の参入もあって一般への認知が急速に広がりそうで、注目の年となりそうです。。
「体験型エンタメ情報局」でも、今年はより積極的に情報発信を行って、その流れをキャッチアップして行きたいと思います。
(執筆:石川淳一)

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