「体験型エンタテインメント 2010年 総まとめ」へ、あれもこれもと加筆を行っていたところ、元記事が酷い長さになってしまいましたので、追記分を分割して、独立した記事にしました。
「体験型エンタテインメント」の定義を曖昧なままでまとめているため、混沌としていますが、いずれも「自分から能動的に動く楽しさ」、言い換えると「他人とは違う、自分だけの体験」を共通点としているエンタテインメントです。
ジャンル別実施状況(続き)
PBM (Play By Mail)
能動的に参加するエンタテインメントの少し違った側面として、PBM (Play By Mail) と呼ばれるジャンルもご紹介しましょう。PBM は以下のようなゲームです。 (1) 世界観やシナリオ一覧などの初期情報を入手します。(2) 自分の分身となるプレイヤーキャラクター(PC)を作成・登録します。(3) PCがどんな行動をするかを記入用紙に自由に書いて送ります。(4) しばらく待つと、PCの行動結果が小説形式で送られてきます。(5) 以上を1年程度の会期の間、続けます。郵便を使って遊ぶゲームですので、Play By Mail、ないしはメイルゲームと呼ばれています。行動結果の小説(リアクション)は、参加シナリオやPCの居場所ごとに異なるものが返送されますので、そのターンで起きたことの全容を知るには、他のプレイヤーと交流して、リアクションを集めなければなりません。また、人間がライブで進行をコントロールしますので、プレイヤーの行動により、ダイナミックに物語世界全体へ影響を与えられることも魅力です。歴史的には逆ですが、ARG から、考古学的リーディング・コミュニケーション・ストーリーの要素を抽出したエンタテインメント、という見方もできるかもしれません。
90年代にはいくつもの会社が PBM を主催していましたが、近年は実施数も減り、2010年は、商業ベースのものではエルスウェアの「どらごにっく★あわー!」くらいだったようです。「どらあわ」は全10ターンで、会費は1PCにつき3万円。商業PBMの参加者数はあまり公開されていませんが、一般的におおむね数千人のオーダーだと言われています。それも、年々減ってきています。
他の体験型エンタテインメントが盛り上がりつつあるのに比べ、PBM の元気がない理由として、会費が高い・交流や情報把握が面倒・頭を使って次回行動を考え続けるのがしんどい、などの要因が指摘されています。まとめると、時間がない現代人にはハードルが高い、となるでしょうか。ゲームシステムのブレイクスルーが望まれます。
一方、2010年も元気の良かった、似て非なるサービスが PBW (Play By Web) です。行動を送ると結果が小説形式で返ってくるのは同じですが、その仕組み全体を Web 上でシステム化しています。PBM との相違点は、大規模化への対応と運営の効率化のために、物語世界へのプレイヤーの関与度を大幅に減らしたことです。このため、PBW プレイヤーの動機は、物語世界の未来に関与することよりも、自分だけの小説を手に入れることのほうに重きが置かれているようです。その延長で、自分だけのキャライラストやキャラボイスを制作してもらう有料オプションも人気です。
PBW の大手は、トミーウォーカーとテラネッツです。また、後発ではありますが、フロンティアワークスの「蒼空のフロンティア」は、PBMの流れを汲んだダイナミズムのある運営で人気を集めています。
なお、根強い人気のあるジャンルの例に漏れず、PBM も同人でも制作されています。e-mail を使った PBeM (Play By e-Mail) 形式や、SNS 上で行われていたりするようですが、いずれもごく小規模です。
位置情報を利用したゲーム
これまで述べてきた体験型エンタテインメントは、デジタルデバイスを必ずしも必要としない面白さを起点にしたものが中心ですが、一方で、デジタルデバイス上のゲームから来ている流れもあります。「位置ゲー」とも呼ばれるGPSなどの位置情報を利用した一連のゲームです。流行り言葉で言えば、「ジオメディア」の一種、とも言えるでしょうか。この分野では、コロプラが提供する「コロニーな生活☆PLUS」、マピオンが提供する「ケータイ国盗り合戦」などが代表的です。2010年末の情報では、コロプラが約155万人、ケータイ国盗り合戦が約70万人のユーザを抱えています。
家庭用ゲームに近い流れからもチャレンジが行われています。2010年12月には、バンダイナムコゲームスの「アイドルマスター」のモバイルサイトにおいて、エリアゲームと呼ばれる無料サービスが開始されました(電撃オンラインの記事)。また、コナミの「ラブプラス+」では、都道府県ごとに違うキャラクターが得られるご当地ラブプラスというシステムが組み込まれています。
そんな中で、位置情報を利用したゲームのプラットフォームを整備する動きも出てきました。ハンゲームが“今”と連動したゲームを「リアゲー」と名付けた上で、そのプラットフォームの提供に動いている(日経トレンディネットの記事)一方で、11月には、コロプラも携帯電話・iPhone・Androidに対応した位置ゲー特化型プラットフォーム「コロプラ+」の提供を開始しました(プレスリリース)。また、ARアプリ「セカイカメラ」も「セカイアプリ」という名で、複数のデベロッパが開発したAR空間上で遊べるARアプリをリリースしており、ARオンラインRPG「セカイユウシャ」などがサービスされています。
なお、エリアを限定した体験型エンタテインメントで、GPSを道具の一つとして生かす、というアプローチでは、SCRAPが10月に「GPSリアル勇者シリーズ第一弾 誰がドラゴンを殺したか?」を開催し、2011年にも謎解きGPSパズルゲーム「東京迷宮パズル」の実施を予定しています。
参加型演劇
上記のジャンルに当てはまらないものとして、従来から行われてきた参加型演劇の試みがあります。観客参加型ミステリーイベントも、この流れを汲んでいる部分があります。ミステリー以外では、観客の参加のレベルがまちまちなため、なかなかまとめづらいのですが、そんな中で、Port Bの「完全避難マニュアル 東京版」を特に挙げてみます。
これは、ただ参加者に新しい体験/出会いを与えることを目的とした大がかりな企画でした。公式サイトにて、いくつかの質問に応えると、山手線の各駅に設定されている「避難所」の一つが選ばれて表示されます。この「避難所」は、東京にあって、普段接点がないコミュニティや場(禅寺・都会のオアシス・ネットカフェ・宗教・アキバ系……)に触れるきっかけとなるよう設計されています。それ以上のストーリーは用意されておらず、ただ地図を片手に「避難所」巡りをして、感じたことが観客の得るものである、という、究極の体験型イベントでした。なお、延べ参加者は数千人規模だったようです。
ARGからストーリーも謎解きもトランスメディアも抜いたときに、何が残りうるのかの答えのひとつが、ここに有ったように思います。こうした尖った試みは、なかなか商業目的ではできませんので、実施事例として参考になりますね。他にも演劇における「ポストドラマ演劇」の試みは、ARGの要素を分解して考察する材料として興味深いかと思います。
また、もう少しエンタテインメント性の強い実施例としては、THE 黒帯の「eleven」が宣伝や劇中でARG的手法を取り入れ、評判も良かったようです。今後も、こういった試みは継続して行われていくのでしょう。
アトラクション
従来型のテーマパークは、この記事の対象ではありませんが、来場者の能動性をより高めた、新しいアトラクションの試みも行われていますので、少し触れておきます。まずは、常設施設です。アメリカ生まれのリアルロールプレイング型アトラクション「マジクエスト(MAGIQUEST)」は、プレイヤーが自分の杖(ワンド)を購入し、クエストをこなしていくゲームです。ワンドの先端にはLEDが仕込まれており、振るとワンドごとに固有の赤外線信号を投射します。これを使い、魔法使いになりきって、杖を振ることでアトラクション内で様々なミッションをこなしていきます。クエストは膨大な数があり、ワンドにはそのクリアデータが紐付いていますので、自分のワンドを持参して何度も遊びに来ることになるというわけです。日本では、ラグーナ蒲郡と、東京ドームシティアトラクションズで体験することができます。
また、東京ドームシティアトラクションズでは、携帯端末とRFIDを使ったトレジャーハンティング「ルパン三世〜迷宮の罠〜」も常設されています。
一方、新たな試みとして、7月と10月に Rush Japan が富士急ハイランドにて参加型ミステリーイベント「トリックシアター 怪盗Rのアジト」を開催しました(マイコミジャーナルの7月のイベントの記事)。凝った小道具や演出で、参加者を大いに楽しませました。ただ、当初は7月がプレイベントで、10月は毎週土日に継続して開催する予定だったところが、最終的には、10月も1回のみの開催となってしまったようです。
同じく Rush Japan が主力商品の宝探し企画をテーマパークのアトラクションとして提供することも行っています。明治村では期間限定のイベントとして「明治探検隊」を毎年実施しており、好評を博しているようです。また、ハウステンボスでは常設アトラクションとして2010年4月より「ジパング探偵倶楽部」がスタートしています。
テーマパークが、皆に均質な非日常体験を与える場から、パーソナライズドされた非日常体験を与える場へと転換していくのであれば、体験型エンタテインメントは鍵の一つになるはずです。こうした試みは、今後も増えていくのではないでしょうか。
その他
「体験型エンタテインメント」の解釈次第では、いくらでも幅が広がってしまいますので、最後に、周辺のエンタテインメントをいくつか拾っておきます。TRPG(テーブルトークRPG)は、ゲームマスターと呼ばれる進行役とプレイヤー数名とが机を囲んで、ルールに従って即興で物語を紡いでいく遊びです。現在のインタラクティブな物語コンテンツのルーツと言ってもいいでしょう。ARGも例外ではなく、最初のARG「The Beast」のオリジナルのアイデアを出したジョーダン・ワイズマン氏は、TRPGの名作「バトルテック」「シャドウラン」を手がけたゲームデザイナーです。
さて、日本でのTRPGの状況ですが、一時期はプレイヤー人口の減少で商業出版に載せるためのハードルが上がり、TRPG制作者が自ら雑誌を立ち上げて発表の場を支える状況が続いていました。しかし、グループSNEの「ソードワールド2.0」、F.E.A.Rの「アリアンロッド」、冒険企画局の「シノビガミ」などの新規タイトルが支持を受け、勢いを取り戻しつつあるようです。9月に開催されたアナログゲームの宿泊型イベント JGC2010 も、2000名以上の参加者で賑わいました。
一人用の家庭用ゲーム・PCゲームでも、プレイヤーの自由度を高めることで、即興的な楽しみを提供するゲームが作られています。自由度の高さは様々ですが、一定以上の自由度があるものを箱庭(sandbox)ゲーム、あるいはオープンワールドのゲームと呼んで区別しています。欧米ではオープンワールドゲームの人気が高く、積極的に制作されていますが、日本ではなかなか浸透していません。慣れていないためか、自由に何でもできることをかえって心細いと感じてしまう人も多いようです。2010年に日本で発売されたタイトルでは「Fallout: New Vegas」が代表作でしょうか。
MMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)は、その名の通り、多人数がインターネットを通じて仮想世界上で遊ぶコンピュータRPGですが、様々に用意されたシチュエーションでコミュニケーションを楽しむ体験型エンタテインメントと見なすこともできます。日本においては、数年前までは急成長分野としてもてはやされていましたが、近年になって成長は鈍化しています。オリコンの顧客アンケートによると2010年のプレイヤー数の上位は、「ラグナロクオンライン」「メイプルストーリー」など、国内での累積登録ID数が300万を超える老舗タイトルが並んでいます。また、9月には「FINAL FANTASY XIV」がサービスインしたものの様々な事情でうまくいっておらず、ユーザは前作の「FINAL FANTASY XI」に留まっているようです。サービスインから8年も経っているこれらのタイトルが未だに多くのユーザに遊ばれていることからも、カジュアルなプレイヤーのプレイ動機が、ゲーム体験の新しさよりも、コミュニケーションにあることが分かるのではないでしょうか。
そのコミュニケーションの要素を中心に据えているのが、流行のソーシャルゲームです。いくらでも情報はありますので、ここではさらっと流します。日本においては、モバゲー・GREEといったモバイルソーシャルゲームがブームの中心となっています。「怪盗ロワイヤル」「釣りスタ」などが代表的なタイトルです。ゲーム単体のユーザ数の情報は公開していないようですが、GREE全体の登録ユーザ数は2000万人超、その中で釣りスタの最大同時プレイ人数は25万人とのこと。一方、世界的に見ると、zynga の Facebook アプリ「CityVille」が達成した月間アクティブユーザ(MAU)約1億人という存在感が圧倒的です。ゲームの作り込みを見ても、ソーシャル部分の作り方を見ても、「CityVille」の完成度は高く、ゲームコンセプトを他から借りて安く作れば儲かる、というソーシャルゲームのイメージはもう過去のものだと感じさせられます。
なお、カジュアル層に向けたソーシャルアプリは、ネットワーク外部性が強く働きますので、少数のタイトルで寡占される傾向にあり、後発には辛い市場であることには注意が必要です。しかし、特定のコミュニティに強く刺さるソーシャルアプリという考え方であれば、まだいくらでも余地は残っています。コミュニケーションの楽しさという共通点を生かせば、ソーシャルアプリ×ARGという可能性も十分にあるのではないでしょうか。
以上、長くなりましたが、体験型エンタテインメントの2010年の総まとめとさせていただきます。誤りの指摘、ご意見などがございましたら、@epics_jp までお寄せいただければ幸いです。
(記事中でCC BY-SA 2.0でライセンスされているゲームダイスの写真を利用させていただきました)
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