2024年6月14日

【ATOMO連載】体験型エンタメ情報局出張所 #2「音声AR」


全国の体験型エンタメ施設/店舗等にて隔月刊で配布中の体験型エンタメ情報誌「ATOMO」で連載している「体験型エンタメ情報局出張所」のバックナンバーを紹介。この連載では毎回体験型エンタメやそれに近しいカテゴリをピックアップして簡単な解説を行っています(2022年9月号掲載分/表記等は掲載時点のものです)

『体験型エンタメ情報局出張所』2回目は「音声AR」を紹介します。

音声ARとは?

ARについては耳にしたことがあっても、音声ARについては初めて聞いたという人も多いかもしれません。まずARについて説明しましょう。

ARとは「Augmented Reality」の略で、「拡張現実」と訳される場合が多いようです。

専用のゴーグル等を使って現実世界から切り離して体験するVR(仮想現実)と違い、現実世界に何らかの情報を投影したり付加することで、現実世界を拡張することからこのような呼ばれ方をしています。

ARの代表的なコンテンツとしては『ポケモン GO』が挙げられるでしょう。スマホのカメラ越しに見ることであたかもポケモンたちが自分たちの現実世界にいるかのような表現を実現しています。

ARに対して音声ARは、現実世界への重ね合わせを音声のみで行っているコンテンツです。イヤフォン経由でそこに実際にいない人の声や効果音を重ねることで体験感を与えることができるコンテンツです。

音声のみだと表現が限られると思うかもしれませんが、逆に音声のみで状況を想像させたり、GPSやビーコンを使って目的の場所に行くとスマホを見なくても自動的に音声が流れる仕組みを作って自然な没入感を実現できるメリットがあるのです。

音声ARのベンチマーク『せんじゅさま』

『せんじゅさま』はソニーの音声ARアプリ『Locatone』を利用したホラーコンテンツです。私が体験した時は原宿のみの展開でしたが、2022年8月の時点では大阪や名古屋でも開催されています。

せんじゅさま』は音声ARのお手本のようなコンテンツです。

●周遊する場所をきちんと活かした物語
●目的地間にも必要なら音声を流して飽きさせずに臨場感を高める
●SNSやサイトなど音声AR以外のメディアを絡めた立体的な物語構成
●スマホを振る、足踏みをするなどの能動的な追加操作
●重要な情報が流れる前に鐘の音がなるので、音だけでも聞き逃しにくい

など、1つ1つを見ればさほど目新しさはないと感じるかもしれませんが、これらのことをすべてきちんとやっている音声ARコンテンツは意外に少なく、今後の音声ARコンテンツはぜひ『せんじゅさま』をベンチマークにしてほしいなと思います。

謎解きと組み合わせた『渋谷もののけスクランブル』

渋谷もののけスクランブル』は2022年5月から開催されている渋谷の周遊コンテンツ(注:2024年1月終了)です。この作品も『Locatone』を利用していますが、ユニークなのは周遊型謎解きと組み合わせていることです。

参加者はまず参加キットを購入し、それに沿って謎解きを開始します。謎を解いて次に向かうべき場所を導きだし、正しい場所に到着すると、そこで音声ARを使ったドラマが展開されます。

音声ARのコンテンツはルートが一直線になることが多いのですが、『渋谷もののけスクランブル』は謎解きを絡めることで、次にどこへ向かうかのワクワク感と立体的な物語体験を実現しています。

一部『Locatone』と謎解きの相性が気になる部分もありますが、今後の音声ARの可能性を感じさせるコンテンツです。

画像提供:クロステイルズシブヤ

目的地への移動も体験に 『粋人たちの隠れ家』

料亭で愉しむポケットイマーシブシアター –粋人たちの隠れ家-』は2022年春に行われたイベントです。浅草の料亭で鯛茶漬けを食べながら映像のダンスパフォーマンスを見るという、新型コロナ時代を意識したイマーシブシアターです。イマーシブシアターと銘打っているのでメインはダンス映像かもしれませんが、今回は料亭まで誘導する音声AR部分に注目したいと思います。

このコンテンツの面白いところは「老舗の料亭に行って鯛茶漬けを食べる」という目的に対して、そこに向かう移動も体験化していることです。

集合場所でQRコードを読み取ると、歩く速度に合わせた音声が流れ、料亭に向かう道の誘導と共に、道沿いの建物や浅草の歴史を説明してくれます。

このイベントは「もう1つの目に見えない世界」「別世界の住人になる」という視点で行われており、音声も単なる観光案内ではなく、その設定に沿って行われます。

お店について鯛茶漬けを食べるという行為も、音声ARによって「儀式」化されていて、音声ARによるこれらの体験が参加者を現実から切り離された世界へと誘うことに成功しているのです。

一人でもお化け屋敷デートが楽しめる『ボイス・デート』

ボイス・デート~声の恋人~』は単体のコンテンツではなく、東京ドームシティのお化け屋敷『怨霊座敷』の期間限定(2022年7月16日~9月25日)拡張コンテンツです。

このコンテンツは一言でいうなら、「お化け屋敷に一緒に入ってくれる恋人がいない人でも、音声ARで恋人役の声が聞こえてきて、デート感覚でお化け屋敷を楽しむことができる」というもの。天才かよ!

『ボイス・デート』では、入る前に専用の機材をスタッフからつけてもらい、お化け屋敷へ入っていくことになります。私が試したのは女性バージョンの音声ですが、お化け屋敷の部屋に合わせてとても怖がりながら話してくるので、思わず「自分が守ってやらねば!」という気持ちに。

さらに立体感のあるステレオ音声を活かして、怖くて自分の後ろに回ったり、進んでいくにつれて怖くてぴったりと側に近づいてきたりと、音声だけできちんと女の子の感情に合わせた動きを表現し、本当にデートしているかのような体験を得ることができます。

今年目についた音声ARコンテンツを中心に紹介してきましたが、音声ARはまだまだ可能性のあるジャンルだと思います。今後さらに多彩な使われ方をすると思いますので、ぜひ注目してみてください。

(執筆:SIG-体験型エンタテインメント 石川淳一/編集:田中宏明)