去る10月20日に開催された
SIG-ARG第4回セミナーにて「体験型企画の参加者層を拡げるための10の方法」を論じました。全体の雰囲気は Gamebusiness.jp に「
体験型エンタテインメントの市場を広げる方法とは?事例から探る SIG-ARG04レポート」という記事を掲載していただいていますので、参照してください。当日の Togetter まとめは
こちら。
この記事では、「体験型企画の参加者層を拡げるための10の方法」について、パネルディスカッションやその後の議論を通じて提案されたリストをまとめます。これが正しい!というものではなく、こんな意見があり、ある程度の説得力がありましたよ、というリストです。この中から、皆さんにとって役立つ考え方を見つけてもらえたら幸いです。
1. 謎解きに+αを加える
体験型謎解きゲームだとしても、宝探しや、普段はできないことができる、シチュエーションが面白いなど、+αの体験要素が重要です。謎解きが得意ではない多くの人でも、体験要素で満足感を得て、次は謎も解いてやろうというポジティブな気持ちで終われます。そうでなければ、時間を浪費して惨めな思いをしただけ、という気持ちで終わってしまい、二度と参加しないでしょう。
2. 同じ遊びを作り続ける
ジワジワと一般に普及していくためには、同じ遊びが作られ続けなければなりません。作り手は飽きてきますが、だからといって頻繁に形を変えていたら、それを追いかけられる先鋭的な人たちにしか遊んでもらうことはできません。
情報のアンテナが高くない人々に評判が伝わるには長い時間がかかります。そうしてようやく伝わったのに、参加してみようと思ったら既に参加する機会がなかった、ということがないようにしなければなりません。
3. 常に新しいネタを考える
前項と矛盾しているかもしれません。でも、娯楽制作というのは常にどうやったら新鮮に驚いてもらえるだろうということを考え続けるものでもあります。それも、外に広がっていくような新しいネタが必要です。
常連さんしか楽しめない方向に深化すると、待つのはシューティングゲームや格闘ゲームがかつて辿った一見さんお断りのディープな世界です。
4. 構造を分かりやすくする
体験型エンタテインメント、とくにARGは、複数のメディアを使うトランスメディア展開が大きな特徴となります。が、安易に複数のメディアに分散してしまうと、メディアを一つまたぐごとに、ついて行けない人をどんどん振り落としていってしまいます。参加者の想定をしっかりして、無理のない多メディア展開をしなければなりません。
また、遊び方が分からないと、そもそも誰も入ってきてくれません。新しい遊びであるが故に、その楽しみ方をどう伝えていくのかには最大限に気を使っていく必要があるでしょう。遊戯王が TCG の遊び方を広めたように、ARG をプレイしている様子を楽しそうに描いた漫画やアニメが必要だ、という意見もありました。
5. 誰もが入りやすい仕掛けを考える
「メグミとタイヨウ」では、最初、頼りないタイヨウくんが twitter 上で恋の悩みをみんなに相談するという形で始まりました。そして、友だちに接するように気軽に返信するだけで物語に関わっていくことができたのです。このように、身構えず入ってこれ、また友だちにも紹介できる入口を用意することも重要です。
また、テレビCMなどのマスメディアも分かりやすい入口を作るという意味では便利な道具です。同じく「メグミとタイヨウ」では60秒TV CMを使って丁寧に最初の説明と誘導を行い、大きな成功を収めました。
6. 参加者と運営が一緒に盛り上がる
体験型エンタテインメントはライブ感が一つのキーワードとなりますが、その際に運営側が楽しんでいる雰囲気は参加者にダイレクトに伝わります。イベント型の企画で、現地の裁量を大きくしたところ、現地スタッフが自分でアイデアを出しながらノリノリで運営を行っている事例なども紹介されました。
また、Web を通した施策であっても、現場の裁量が大きければ、それだけ参加者の行動を受けた反映を行うことができ、それが参加者との良好なリレーションシップを築く土台となります。
7. 制作者の発掘・育成
体験型エンタテインメントで、リアルタイム性の高いストーリーテリングを行おうとすると、他の時間を掛けて作るコンテンツとはまた異なった様々なスキルが必要になります。中小の事例を実施し続けることで、こうした才能の持ち主が集まってきたり、制作チーム内で育っていき、それが、より大きな事例の成功に繋がっていきます。
8. 理解あるクライアント・上司を得る
結局の所、大きな体験型事例を行うには、お金を出してくれる決裁権を持った人に理解していただく必要があります。実際、ユニークな企画が実現できた所は揃ってクライアントや上司が協力的であり、逆に当初の予定から大幅に企画の面白さが後退していく事例ではクライアントの不理解によるケースの枚挙に暇がありません。
成功事例が増えて行くにつれ、クライアントの理解は得られやすくなるとは思いますが、現状では協力的なクライアントは非常に貴重であると心得て、太く長いお付き合いをしていきましょう。
9. ドラクエ級のヒット作を作る
日本の RPG というジャンルをドラクエが定義したように、そして、欧米の ARG というジャンルを The Beast が定義したように、日本の体験型エンタテインメント、あるいは ARG というジャンルを定義する超ヒット作が生まれれば、ほとんどの問題は一発で解決です。
問題は、ヒット作を狙って産みだせるのならば、みんなそうしているということな訳ですが……。しかし、トライしないと成功もありません。まずは作り続けることが重要ですね。
10. ARGのもっと分かりやすい言い方を考える
ARG(代替現実ゲーム)という言葉がそもそも分かりにくいよね、というご指摘です。制作者向けの用語は、欧米との情報共有もありますので ARG で良いと考えていますが、プレイヤー向けにもっと分かりやすい言葉があるといいですね。ずっと議論しているんですが、なかなか・・・。
以上、「体験型企画の参加者層を拡げるための10の方法」でした。
ちょうど SCRAP の加藤さんがブログで「
つくること。どこまで書いていいのかわかんなくて全部書いた日記」という記事を公開し、話題になっています。古参のファンから批判的なことを言われることが増えて悲しいが、それでも自分が面白いと思うものを作ることが大前提だ、という内容で、作り手としては大変共感しました。ただ、同時に、上記でまとめたジャンル拡大という観点からは、リアル脱出ゲームというブランドが提供する遊びは現状から大きく変わらずにいて欲しいという気持ちもあり、なかなか複雑です。
SIG-ARG4 に関しては、一部の講演で資料と動画も公開できる予定です。現在整理中ですので、もう暫くお待ちください。
関連リンク
SIG-ARG第4回セミナー
SIG-ARG 第4回セミナー「体験型企画の参加者層を拡げるための10の方法」 - Togetter
体験型エンタテインメントの市場を広げる方法とは?事例から探る SIG-ARG04レポート / GameBusiness.jp
kato takao | weblog: つくること。どこまで書いていいのかわかんなくて全部書いた日記