今週末のSIG-ARG第3回研究会に先立ち、『日本ARG』をテーマにtwitterラウンドテーブルを2回開催しました(第1回ログ・第2回ログ)。非常に活発な議論が交わされ、日本におけるARGの現状と課題が浮き彫りとなったと感じています。
このラウンドテーブルにおいて、私(えぴくす)は、モデレータとして出来る限り進行に専念しておりました。しかし、皆さんの激論が深まるにつれ、このテーマで自分も言いたいことがある!というフラストレーションが、ぼた雪のように降り積もっていったのです。そう、それが、このコラムが生まれた理由です(笑)。
少し長文になってしまいましたが、以下の5年後のARGの考察にお付き合いいただければ幸いです。なお、5年後というのは、現在の娯楽業界の勢力図ががらっと変わりうるだけの時間、程度の意味で取っておいていただければ幸いです。
5年後の「5つの姿」
日本のARGの現状は、皆さんの発言にもあったとおり、「これから」というのが適切な形容でしょう。コアプレイヤーの層の厚さも、制作者の数も、まだ少数です。しかし、私はそれをほとんど悲観していません。むしろ、これからいかようにも伸びしろがあることにワクワクしています。
この自信は、ARG的な手法が、テクノロジーと文化の双方の変遷が交わる領域として、当然にやってくるものであるという確信に依ります。実際に、一昨年より去年、去年より今年と、日本におけるARG的な企画の実践は明らかに増えてきています。問題は、花開くのが早いか遅いか、そしてどこまで広がるか、です。
そこで、自他共に認める楽観論者の私が、ARGという手法が5年後に日本でどう花開いているかの未来予想の「5つの姿」を以下に挙げます。あなたはどの未来図に貢献したいですか? それとも、全く別の未来を導かれるのでしょうか。
月間1000万PVの「体験型プロモーション」
ひと月から数ヶ月の期間で開催される「体験型プロモーション」には、月に数千万PVを稼ぐ企画も出てきているでしょう。ポイントは、人との繋がり。話題作りのための派手なラビットホール、参加者を動機づける分かりやすいストーリーに、友人や家族、恋人とのコミュニケーションを活性化させてくれるようなミッションがたくさん詰まったキャンペーンです。
ゲームに参加することで、日常が非日常に変わる瞬間が訪れます。例えば、友人をたくさん集め、参加者だけに分かる「指令」に従った写真を撮って投稿してみたり、携帯電話が教えてくれた偶然すれ違った見知らぬ参加者と即興で共同作業を行い、その結果がキャンペーンサイトの地図上に反映されたり。キャンペーンサイト上で見るだけでも面白いチャレンジ結果は、閲覧者も多く引き寄せ、またその中から参加者が生まれる、という流れを生み出します。
ちなみに、これだけの動員を行うためには、強い動機を持って熱心に参加してくれる数万人のコアな参加者が、自発的にどんどんコンテンツに魅力を足していけるような構造が必要です。その周りで、彼らの友人たちや、ただの通りすがりが、数十倍〜数百倍ものボリュームのオーディエンスを形成し、結果、プロモーション対象のポジティブイメージが大勢の生活者の元に届けられるのです。
そこにはハードな謎解きも、背筋がぞくぞくする代替現実感も無いかもしれませんが、日常を面白くするというARG手法の魅力は確実に息づいていることでしょう。
収益構造は、参加費無料で、スポンサーからの広告宣伝費でまかなう形になります。
有料会員数100万人の「ライブアドベンチャー」
3ヶ月〜1年の期間で実施される「ライブアドベンチャー」は、課金制のオンラインゲームの新しい姿となるでしょう(今は影も形もありませんが!)。代表作となるタイトルでは100万人の会員を抱えているものが出現していてもおかしくありません。そこで重要視されるのは、達成感。参加者全員で共有する代替現実の世界の課題に対し、自分と仲間たちが関わり、影響を与え、何かを達成することが、大きな魅力となるようにデザインされます。
オンライン上でのベースキャンプとなるサイトは、大作オンラインゲーム1本を作るのと同等の労力をかけて作り込まれています。そこは架空のニュースサイトであるのと同時に、日常的なミッションを提供するためのゲーム要素も織り込まれているでしょう。プレイヤーは日常の合間に、携帯端末やPC、ゲーム機を使ってゲームにアクセスし、もう一つの日常として、仲間の動向や、現実と重なったゲーム世界の変化を知るのです。
リアルタイムで変化していく作り込まれた物語の上で、プレイヤーが自分だけの経験を体感できることを重視する反面、多くの参加者に体験を提供するために、代替現実感にはあまり重きをおかれないかもしれません。
収益構造は、会員からの月額課金。体験に価値を置くという観点からアイテム課金は向きませんが、より深い体験をしたいプレイヤーに、その分のコストを支払ってもらうという従量課金的な発想はありでしょう。
また、ゲーム世界へ影響する行為は参加者しかできませんが、その物語の行く末を眺めるだけであれば無償で公開するというスタイルも考えられます。バーチャルスタジアムを埋め尽くす中高生のオーディエンスの声援を受けながら、スタープレイヤーたちが世界を救うクライマックス、ワクワクしてきませんか?
10万人が参加する「リアル謎解きイベント」
ここ数年で大きく伸びてきた単発イベント型の「リアル謎解きイベント」も、参加者を伸ばしているでしょう。(タカラッシュ!のような宝探し企画や、ミステリーナイトのような参加型ミステリイベントも、単発のイベント企画ということで、この分類に入れています)
現在進行形で制作者の裾野が大きく広がり、さまざまなタイプの謎解きゲームが作られ始めています。これから5年でさらなる広がりと淘汰を繰り返し、尖った面白い企画が林立するようになります。
定められた公演時間の中で、参加者全員が、ある程度均質かつ密度の高い体験を得られることが、このタイプの企画の魅力です。
なお、(公演を複数回するにせよ)リアルで人が集まる必要があることと、現時点での首都圏で1万人前後での頭打ち感から、国内では10万人規模がmaxかもしれません。
収益は、参加費×人数。収支の計算がシンプルで分かりやすいのも魅力です。
1万人のコアファンを擁する「本格ARG」
インディペンデントな制作チームが提供する「本格ARG」は、コアなファンを獲得していることでしょう。ここで何より大事なのは代替現実感。広大な現実空間を探索し、そこに潜んだ世界の裏の真実を探し当てた時の興奮。日常を浸食する非日常。ゲームの境界が分からなくなる感覚。This Is Not A Game.
コアな楽しみであるため、プレイヤーの人数は限られますが、その分、他の何でも代替できない濃密な楽しみが提供されます。
ビジネスに乗りにくいため、最初は、こうした体験を作ることに生き甲斐を感じる独立系の制作チームが、採算度外視で制作する形になるでしょう。100人〜1000人規模の草の根(grassroot)ARGが幾つも作られていく中で、やがて飛び抜けて人気がでる作品が生まれ、何万人ものファンが付き、大きなムーブメントを導いていくかもしれません。
また、ジャンルの確立に伴い、SF大会やJGCに似た、ARGのファンイベントも開催されるようになっているはずです。宿泊型でどこかの会場を借り切って、朝から晩まで過去作品のプレイヤーの同窓会や、制作者とファンの交流、そして新しい作品の導入イベントなどが行われ、より強固なファン層の形成が進むでしょう。
1000種類のコンテンツへ「代替現実+」
ラウンドテーブル内でも指摘がありましたが、ARGは実際のところ、ユーザ体験をデザインする手法の集まりと見ることができます。つまり、ARG的手法を既存の様々なコンテンツに適用し、ユーザ体験の質を向上させることが可能です。例えば、テレビドラマ。一方向の媒体であるテレビは、年々、視聴者の興味を引きにくくなっています。しかし、例えばドラマの放送と放送の間に起こる出来事を、ネット上や現実世界でリアルタイムで体験することができれば。さらには、その時に視聴者が取った行動が次回のドラマに影響するとしたら。ドラマは視聴者にとって身近な、自分と関係のある存在となるでしょう。これが「ドラマ+代替現実」です。
別の例として「観光+代替現実」を考えてみましょう。風光明媚な地を散策するだけで旅は楽しいものですが、そこにさらに代替現実の物語が加わったら。観光マップは宝の地図に変身し、名所の由来は謎を解く鍵となります。自ら町の資料館に足を運び、町史を紐解く必要が出てくるかもしれません。そうして辿り着いたゴールからの景色は、格別のものとなるでしょう。その時、土地との関係は、行きずりの旅行者から、一歩踏み込んだものへと変わり、旅は深く記憶に刻まれる体験となるはずです。
観光というと遠いものに聞こえるかもしれませんが、「お散歩+代替現実」や「デート+代替現実」でも同じことですね。また、他にも「代替現実+」することで魅力が増すコンテンツは枚挙に暇がありません。様々なコンテンツに「代替現実+」。それがARG的な手法が広がる一つの流れになるのは間違いないでしょう。
そして、70億人の現実を作り替える力に
「代替現実+」は、実はコンテンツに限定されるアイデアではありません。つまらない現実——例えば、日々の家事から、飛行機に乗る苦痛、学校教育、善行の恥ずかしさ、そして死に向き合うことまで——に「代替現実+」することで、現実を楽しく、やりがいのあり、人との繋がりを感じられるものに作り替えることができるのではないか、と考えているのがジェイン・マクゴニガルです。
彼女の著書「Reality is Broken(邦題:幸せな未来は「ゲーム」が創る)」には、今代で最高のイノベーターという賞賛に恥じない、刺激に満ちた14の「現実修復法」が豊富な実例と共に載っています。邦訳はこちらの記事でも紹介していますが、未見の方はまず日本語字幕付きのTEDでの講演動画を一度ご覧ください。
彼女の言うとおり、世界を変える力がARG的な手法にはあると私も信じていますし、日本のインタラクティブエンタテインメントの開発者の中にはそのスキルを持っている人たちが必ず居るとも感じています。もしかしたら、5年後には、日本から世界を変える提案が次々となされているかもしれませんね。
もっとも、あまり大言壮語をしても、皆さんの眉が唾でべとべとになってしまうと思いますので、このあたりで(笑)。
おわりに——「想い出を創るエンタテインメント」
世界を変える話は置いておくとしても、前述の「5つの姿」の根底に共通しているのは、参加者に「生きた体験」を与えるという力です。現実を漫然と過ごしているだけでは得ることが難しい、驚き、喜び、連帯感、達成感といった「自分が考え、行動して得た、生きた体験」を、日常に「+」してくれる娯楽と表現してもいいでしょう。
そして、友と得た「生きた体験」というのは、時が経てば「想い出」となります。想い出を創るエンタテインメント、ARG。個人的にはそんな定義をしていますが、賛同してくださる方はどのくらいいらっしゃいますでしょうか。
ともあれ、11月5日(土)に開催予定の SIG-ARG 第3回研究会「日本ARGの今とこれから」は、ARGの未来を占うに相応しい、バランスの取れた講演者が揃っています。この記事に書いた未来像に賛否はあると思いますが、行く末を見定めるためにも、ぜひ研究会へご参加下さいませ!
記事元
SIG-ARG第3回研究会
SIG-ARG twitter ラウンドテーブル1「『日本ARG』を考える」 - Togetter
SIG-ARG twitter ラウンドテーブル2「続・『日本ARG』を考える」 - Togetter
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