全国の体験型エンタメ施設/店舗等にて隔月刊で配布中の体験型エンタメ情報誌「ATOMO」で連載している「体験型エンタメ情報局出張所」のバックナンバーを紹介。この連載では毎回体験型エンタメやそれに近しいカテゴリをピックアップして簡単な解説を行っています(2022年7月号掲載分/表記等は掲載時点のものです)
イマーシブシアターって何?
①舞台と観客席が分けられておらず、役者と観客が同じ空間に存在する
役者さんとの距離が限りなく近くなることで、臨場感や同じ世界にいる感覚が高まります。また、場合によっては役者との会話が発生したり、指名されて一対一の特別イベントが発生するイマーシブシアターもあり、体験がより強くなります。
②参加者によって観ることのできる場面が違う
イマーシブシアターでは役者さんが動き回ったり、いろいろな場所で同時多発的にイベントが起きるため、参加者はそのすべてを1回で観ることはできません。
その結果、参加者ごとに体験が変わり、その人ならではの物語体験が生まれたり、観ることのできなかった部分を想像したりする楽しみがあります。
ブームを生み出したPunchdrunk
イマーシブシアターの代表作といえば、何といってもPunchdrunkの『Sleep No More』です。ニューヨークで2011年から上演され、今も続く大ヒット作です。
シェークスピアの『マクベス』をモチーフに、セリフのほとんどない形式で行われ、会場は元ホテルのビルまるまる一棟という大規模なイマーシブシアター。その全貌を知るために熱狂的なリピーターも多い作品です。
Punchdrunkは『Sleep No More』以外にも精力的にイマーシブシアターを制作しています。現在ロンドンで開催中の『The Burnt city』は、トロイア戦争をモチーフにした壮大なイマーシブシアターです。トロイア側とギリシャ側の世界を巨大な倉庫2棟を使って再現。その広さは参加するだけで1万歩以上歩くとも。
セリフのないイマーシブシアター
『Sleep No More』に倣ってか、日本でもダンスを中心にした、ほとんどセリフのないイマーシブシアターをよく見かけます。一般的な演劇に慣れていない方でも、ダンスを楽しみながら気軽に参加できます。
ダンスカンパニーDAZZLEは日本で最初に本格的なイマーシブシアターを開催した団体です。2021年~2022年には9ヶ月にもわたる長期公演『Venus of TOKYO』を成功させており、日本のイマーシブシアターを牽引する存在です。
過去3度のイマーシブシアターを成功させているego:pressionは、ほろりとさせる感動的な物語が特長です。2022年夏の新作『RANDOM18』は昔のカプセルホテル一棟を丸々使った大規模な作品となっており、期待が高まります。
宿泊して参加できるものも
参加者が宿泊するタイプのイマーシブシアターもあります。参加費は高くなる代わりに、ホテルそのものをまるごと舞台にしたり、宿泊までも物語体験に巻き込む、より強い没入体験を実現できる訳です。
その代表例は関西のホテルで行われている『泊まれる演劇』シリーズ。
2021年に開催された『藍色飯店』では、外からやってきてチェックインし、チェックアウトして外の世界に戻っていくというホテルでのあり方が物語の設定と密接に関係しており、朝になって自分がチェックアウトする行為すら物語体験に感じられてしまう構成は見事でした。
2022年も夏に『MIDNIGHT MOTEL'22 "ROUGE VELOURS"』が開催されており、今後も年2作程度のペースで上演されそうです。
「藍色飯店」より 写真提供:泊まれる演劇 花岡直弥 様 |
より世界に浸れるイベント
お芝居よりもその世界に浸る体験を重視したものもあります。名作映画の世界を再現し、上映前にその世界に浸れるイギリスの『Secret Cinema』がその代表例でしょうか。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ブレードランナー』などの名作映画を元にその世界をセットで再現し、参加者はまずその中で映画の世界を体験します。その後、映画が上映されますが、上映中も生のキャストが映画の名シーンを再現してくれる、ライブ感溢れるイベントです。どんな雰囲気か知りたい方はYou Tubeなどに動画が上がっていますので『Secret Cinema』検索してみてください。
日本でも2022年5~6月に開催された『輝け!Aqoursぬまづフェスティバルinよみうりランド』が『ラブライブ』の世界観を再現して話題となりました。SCRAPの新ブランド『体験する物語Project』の1作目となります。
フェス開催の準備段階からラブライブのメンバーを手伝うことでその結果がフェスに反映され、開場後はそれを自身で楽しむことができるという面白い構造になっています。
駆け足の紹介となりましたが、イマーシブシアターの魅力が少しでも伝わったでしょうか?
イマーシブシアターは謎解きやマーダーミステリーのような常設施設がないため、行きたいと思ってもどこに行けばいいのか、わかりにくいところがあります。それでも最近は毎月のように何らかのイマーシブシアターが開催されているので、ぜひTwitterなどで検索してみてください。
(執筆:SIG-体験型エンタテインメント 石川淳一/編集:田中宏明)
【ちょっとだけ今補足】(2023年11月)
ATOMOの原稿を書いた当時はようやく日本でもイマーシブシアターが加速してきたかなという状況でしたが、2023年はDAZZLEやego:pression、泊まれる演劇といった記事で紹介した団体が安定して新作を生み出す一方、まったく新しい団体や作品も次々と現れ、大当たりの年となりました。
さらにUSJを立て直したことで知られる森岡毅氏が旧ヴィーナスフォートにイマーシブシアターを核としたテーマパークを2024年春に開業すると発表。一気にイマーシブシアターが脚光を浴びてきた感があります。
一方で海外では記事にも取り上げたPunchdrunkの『The Burnt city』は2023年9月で終了、更にあの『Sleep No More』も2024年1月で終了が発表されてイマーシブシアター業界に激震が走りました。大規模イマーシブシアターは今後も可能なのかといった議論も出てきています。
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