2017年11月10日

【ARG的ブックガイド】シャーロック・ホームズ 10の怪事件


二見書房 1985年日本版初版
ゲイリー・グレイディ、スーザン・ゴールドバーグ、レイモンド・エドワーズ 著
各務三郎 訳


日本では1980年代半ばにゲームブックのブームが巻き起こり、さまざまなゲームブックが翻訳・執筆されました。今回紹介する『シャーロック・ホームズ 10の怪事件』この本もそういったゲームブックの1つです。

ただ、この本をあえてARG情報局で取り上げるのは、ゲームシステムがARG的なトランスメディアゲームとしての特長を持っているからです。
その秘密は、捜査に使う4つの付録にあります。

  • ロンドン市街地図
    いくつかのブロックと番地に分けられており、それが書籍内のパラグラフの役割も果たしています


  • ロンドン住所録
    たくさんの名前が住所と共に記されています。ロンドン地図と照らし合わせることで、特定の人物がどこにいるかが分かります。また、職業別の欄もあり、例えばある個人が自宅とは別に職場がある場合にも調べることができます。


  • タイムズ
    10の事件の発生日に合わせて10日分が収録されています。
    一般的なニュースから、誕生、訃報、尋ね人といった3行広告までさまざまな記事が載っています。


  • 捜査の情報源・一覧
    片面は小説にもたびたび登場する「ベイカー街遊撃隊」のメンバー証になっており、もう片面は重要な手がかりを常に手に入れられる捜査地点の一覧が裏に書かれています。



プレイヤーはこれらの情報を組み合わせながら事件の解決を目指します。
事件のプロローグを読んだら、事件の内容を考え、どこに行くかを考えます。
このゲームブックはパラグラフがすべて住所になっています。
そして、プロローグに出てきた情報を場所に結びつけて、有益な情報を与えてくれそうな場所に向かう(=その住所のパラグラフを読む)のです。



たとえば、話の中に出てきた名前や会社の住所は「ロンドン住所録」で住所を特定できます。
話の中に「~通り沿いの工場」のような表現があれば、「ロンドン市街地図」でそこに該当する場所を探します。また、地図上の距離が事件解決のヒントになるかもしれません。
「タイムズ」を読めば、事件に関係していそうな記事が載っているかもしれません。(事件によっては「タイムズ」の記事からスタートする場合もあります)
司法解剖の情報や、スコットランドヤードが集めている情報を知りたければ「捜査の情報源・一覧」に載っている重要な場所に行けばいいでしょう。
まさにシャーロック・ホームズの世界でホームズが行っていることをプレイヤーも体験できるのです。

プレイヤーは自分が推理して好きな順でさまざまなメディアを調査し、そこから浮かび上がったさまざまな場所を好きな順番で回ることができます。
そこが単なる分岐型ゲームブックと『シャーロック・ホームズ10の怪事件』の違う点です。
事件の解決への道筋と使うメディアはプレイヤーによって千差万別。
この体験が、現実にあるさまざまなメディアを使って証拠を探す代替現実感と、プレイヤーごとの体験感を生み出しているわけです。

ゲームの基本的なスコアは、捜査地点数と最後に提示された「質問事項」の正解度で決まります。
解答編ではホームズが解決に要した捜査地点の回数が提示され、あなたがホームズを上回れたかどうかが表示されます。
でも、私なんかはホームズと競ったりしないで、無駄な寄り道とか、どうでもよさそうな情報とかも追っかけて、19世紀のロンドンを楽しんでいます(笑)

この本は出版が1985年のため、現在新刊で手に入れることはできませんが、当時かなり売れたこともあってか古書では比較的簡単に手に入ります。
あなたも、シャーロック・ホームズのいるロンドンを冒険しませんか?

(文章:石川淳一)

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