■北米では、なんでもARGです。
ARGに関する情報では老舗のARGNet(http://www.argn.com/)を見ていただければ一目瞭然なのですが、北米では、いわゆる公演型の脱出ゲームや、街歩き型の謎解きラリーもすべてARGというカテゴリ内で語られています。これは、北米がいくつかのARGから流行が始まったことに対して、日本ではSCRAPさんのリアル脱出ゲームが流行の起点となったことによるからです。そして北米のARG動向を読み解く上で、実はここが大きなポイントです。
■短いARGもいいけど、ガッツリ遊べるARGはないの?
先ほど、体感型の謎解きゲーム全般が北米ではARGの1種類として認識されていると書きました。北米のARGプレイヤーは、これらの体感型謎解きゲームのうち、特にWebを中心に実施されるものを「ショートターム=短期ARG」とか「(体験の浅い)トランスメディアキャンペーン」と呼んでいます。(SCRAPさん系の形式は総じて "Escape Room Games" と呼んでいます)
最近は映画やテレビドラマの予告ARGの多くが、このショートタームARGと呼ばれる範疇に納まっており、北米のARGプレイヤーの間でも定期的に「オレはショートタームARGで遊びたいんじゃなくて、物語と連続性がありそうな凝ったARGで遊びたいんだよ!」という叫び声が投稿されます。このあたりの予算と実施の兼ね合いは日本より良い環境にあるとは言え、北米でも大きくは変わらないようです。
■北米ARGの発端は、やはりゲーム!映画!テレビドラマ!
最後に、僕が少し前からここ最近まで追いかけている海外のARGやARG的な仕掛けをご紹介しておきます。なお、現在のARGを語る上で筆頭に挙げられるであろう Ingressについては専門家が無数、いらっしゃいますので割愛します。
●テレビドラマ『Sherlock(シャーロック)』の登場人物Webサイト
ARGではなく、ARG的な手法の事例です。番組は、NHKその他でも放送され、人気も高い英BBC制作のテレビドラマですね。登場人物たちが更新しているWebサイトとして、ドラマ内にも何度か出ており、シリーズ序盤に話題性を持たせると共にドラマの世界観を現実にリンクさせる役割を果たしました。シリーズが売れてからは更新や追加がなくなってしまったことが残念です。シャーロック・ホームズのサイト http://www.thescienceofdeduction.co.uk/
ジョン・ワトソンのブログ http://www.johnwatsonblog.co.uk/
法医学者モリーのブログ http://www.mollyhooper.co.uk/
第3話の被害者の公式サイト http://www.connieprince.co.uk/
●Hunt the Truth
ARGの歴史に残る名ARG "I Love Bess" で知られるマイクロソフト社のビデオゲーム『Halo 5: Guardians』のARGとして2015年の3月に開始された、ARGの要素をすべて盛り込んだ王道ARGです。今回のゲームはtumblr上に設けられたジャーナリスト "Benjamin Giraud" のページから始まりました。物語はエピソード00から始まり、2015年6月現在でエピソード11が実施中です。サウンドクラウドを活用するなど、新しいメディアの取り込みもぬかりなく、現在もっともスケールの大きなARGと言えるでしょう。Benjamin Giraud の tumblr http://huntthetruth.tumblr.com/
●Batman: Arkham Knight
バットマンとARGと言えば、どうしても映画『Dark Knight』時に実施されたARG "Why so serious?" が挙げられてしまうのですが、こちらは2015年7月に発売されるビデオゲーム『バットマン アーカム・ナイト』のティーザームービー内に仕掛けられた暗号パズルで完結するショートタームARGです。とは言え、暗号が表示されるフレームはわずか1フレームと普通では見つけられないこと、暗号のデコードが難しかったことから、海外のARGプレイヤーの間で話題となりました。E3で次の動きがあるといいんですがねぇ。Batman: Arkham Knight Trailer https://youtu.be/Ax2edKdZRxg
ネタバレ映像 https://youtu.be/O0EYhaRx3LE
●Who is Mr. Robot
USA Networkで2015年6月24日からシーズン1の放送が始まるテレビドラマ『Mr. Robot』のティーザーサイトで展開されている(現在のところは)ショートタームARGです。番組の内容が、昼はサイバーセキュリティエンジニア、夜はそのエンジニアスキルを使ってハッカーと化す主人公の周囲で発生する様々な事件を追う、サイコスリラーということもあり、こちらのサイトでも、そんなドラマの設定が反映されています。なお初期は情報量が抑えられていましたが、少しずつ増えています。whoismrrobot http://www.whoismrrobot.com/
USA Network上の番組ページ(一部映像は再生できません) http://www.usanetwork.com/mrrobot
YouTubeの番組チャンネル https://www.youtube.com/channel/UCX5R2xqZWND8nJqGTvel3nw
●Junko Junsui
実はこちらのARGは、最近のものではありません。ゲームの開始は2009年。"Junko" と自らを呼ぶ女性が、Facebookの友達申請と同時に不可思議なメッセージを送り始めました。複製されたGoogleの検索ページには、ロシアと思われる場所の小部屋に囚われた彼女の妹がおり、ARGプレイヤーは彼女の妹を救うために様々な活動に取り組みました。セカンドライフ内で発見されたボット。様々な民族の歴史と神話の解析。暗号解読の数々。しかし、それらの活動は、2010年に突然の終わりを迎えます。削除されたすべての履歴、それを保管しようとするプレイヤーたちの活動。ゲームはそのまま終わるはずでした。状況が変化したのは5年後の2014年10月。公開されたiPadアプリ "ALFA-ARKIV"には "Junko"に関する様々な資料が収録されていました。開発元へのリンク先は謎の映像につながっており、ウィキリークスには関連するALFA-CIPHERの記事がありました。秘匿暗号、ロシアの秘密組織、 暗躍するテロリスト。世相を反映した世界観は、確実に現実と虚構を境界線を打ち消そうとしてきます。ある意味、もっともARGらしいARGと言えるでしょう。
ALFA-ARKIV for iPad説明映像 https://vimeo.com/102361389
Wikileaksのページ http://wikileaks.las-sgg.cl/alfa-cipher.html
ARG情報局へのひさびさの寄稿は、なかなかの長文となってしまいました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(文章:澤田 典宏)
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