2011年6月21日

Questions: ARGs in Japan


オーストラリアの研究者(大学院生だと思われます)の方から、日本のARGについての質問をいただきました。ぜひ、皆さまのご意見もいただきたいと思いましたので、許可をいただいて、翻訳・公開します。

質問の背景について確認したところ、日本のメディアミックス戦略と、西洋のトランスメディア戦略の相違点を分析することで、西洋で日本のメディアミックス手法を有効活用したり、逆に西洋のARGにもっと日本の参加者を取り込んだりする方法を研究しているようでした。

質問の内容から、日本のARGの状況が英語圏の方からどう思われているのかも透けて見え、その意味でも興味深いのではないかと思います。

そんなことも踏まえつつ、以下の続きに、質問の翻訳と、私の独断と偏見による回答を載せてみます。皆さまのご意見を反映させた上で、英訳してこのページに追記した上で、質問の返答とする予定ですので、コメントをお待ちしております。(回答を英訳して下さる方も大募集です! 切実に……)


Q1. When did ARGs start to become popular in Japan?

Q1. 日本では、いつ、ARGはポピュラーになりましたか?


Q2. Roughly how many Japanese people take part in ARGs?

Q2. ざっと何人くらいの日本人がARGに参加していますか?


Q3. Are ARGs adapted, or changed for play within Japan? If so, how?

Q3. ARGは直輸入されていますか? それとも日本向けにアレンジされていますか?
アレンジされているとすれば、それはどのようにですか?


Q3 は後半の質問だったのですが、まとめて回答してみます。これらの質問に答えるには、日本の独特の状況について説明する必要があるでしょう。

まず、The Beast から連なる西洋のARGの流れを受けた「ARGらしいARG」を日本でも実施しよう、という動きがあります。RYOMA the Secret Story が典型で、トヨタのヴィッツARG、最近では元気ARGなどもその流れでしょう。

ただし、これらのトランスメディアなストーリーテリングを軸とした西洋型ARGのファン層は、まだまだ限られた規模だと考えています。「ARG」というジャンルであることしかフックがない企画に対して、たいした宣伝もなしに、すぐに集まるコアプレイヤーは数十人程度、その様子を眺めるライトプレイヤーは数百〜千人程度の規模でしょう。(当たり前ではありますが)日本でプレイヤーを数千人以上の規模で集めようと思ったら、そのための宣伝の方法(ラビットホール)も合わせてよく練る必要があります。

そうした中で、今年の2月に開催されたトヨタのヴィッツARGは、テレビCMでの告知を行うなど、これまで日本で開催された中では最も大がかりなARGでした。しかし、1週間という期間の短さが災いし、一般層への浸透は十分できず、メインの twitter アカウントのフォロワー数は数千人にとどまってしまいました。公式の情報がないため詳細は分かりませんが、その外側に話題として波及して伝わった数は、数万人といったところでしょうか。

反面、有名なミステリー漫画を原作とし、トレーディングカードというフォーマットで展開したARG「名探偵コナン カード探偵団」は、多くの人に受け入れられたようです。詳細な売り上げ数は公開されていませんが、他のトレーディングカードと比べて、売り上げが長期間持続し、トータルの売り上げも良好であったと聞いています。

ここまでをまとめると、現状では「ARG」というジャンルだけで集まるプレイヤーの数はまだ少ないが、ARGの仕組みがもたらす効果は日本でも有効であり、短期的な視点で考えると、既にファン層が構築されているコンテンツに、仕組みとしてARGを適用するのが有効だと考えられる、といったところでしょうか。

一方で、海外のARGの流れとは独立に、日本で生まれた体験型娯楽が、ここ数年でブームとなりつつあります。

リアル脱出ゲームは、1時間~2時間の時間制限の中、いくつもの謎を解いて、脱出を目指すという有料のイベントです。初期は教室くらいのサイズの部屋からの脱出でしたが、去年から今年にかけて急成長し、野球場からの脱出を行うまでになりました。参加費は数千円で、毎回の企画に対して合計で1万人程度が参加します。

タカラッシュ!グランプリは、1日をかけて行う無料の宝探しイベントです。参加者には宝の地図が渡されるので、その謎を解いて、最初に正しい宝にたどり着いたチームだけに、100万円程度の賞金が渡されます。テーマパークや観光地で開催され、参加者数を急増させています。現在では、1万人程度の規模となっています。

また、20年以上前から続いている体験型娯楽として、ミステリーナイトというイベントもあります。これは、ホテルに一泊する間に、観客の前で起こる殺人事件を、参加者自身が推理するイベントです。こちらは参加費が数万円と高額ながらも、数千人程度の固定ファンが毎年参加しています。

これらの日本独自の体験型娯楽は、西洋の典型的なARGとは異なる部分もありますが、参加者が能動的に動いて楽しむという点は共通しています。

今年になって、これらの「謎解きゲーム」や「参加型ミステリ」のファンが混ざりあい、より大きな1つの体験型娯楽ファン層になろうとしている傾向が見えてきています。この層は、自分で能動的に動く体験が好きな人たちですので、今後、日本で開催されるより大規模なARGの潜在プレイヤー層となってくれるのではないかと期待しています。

Q4. Do they play mainly international ARGs? Or Japanese ARGs?

Q4. 彼らは主に国際的なARGで遊んでいますか? それもと日本のARGですか?


ARGは情報収集がとても重要ですので、言語の壁が大きな障害となります。国際的なARGは、残念ながらほとんど日本語にローカライズされていないため、多くの日本のARGプレイヤーは日本のARGを遊ぶ以外の選択肢がありません。

数少ない例外として、日本語にもローカライズされ、日本国内でのミッションも行われた The Lost Ring では、日本のプレイヤーも大いに楽しみました。

一方、ルイス・ハミルトンのシークレットライフは、日本語にローカライズこそされていましたが、日本での固有のミッションもなかったため、注目されずに終わってしまいました。

また、日本語ローカライズはされていませんが、NIN の Year Zero では一部の NIN のファンが中心となって日本国内でも状況を追いかけていたようです。

まとめますと、海外のARGが日本で多くプレイされるには以下のような条件が必要です。
・英語ができない人でも楽しめるように、日本語に丁寧にローカライズした上で、NPCとの交流や、ミッションやライブイベントなどを実施する
・言語の違いがあっても乗り越える強い動機を持ったコアファン層を抱えているコンテンツでARGを実施する

多くの日本人は英語を読むことを苦痛に思っている、ということがとても重要なポイントですね。また、日本のプレイヤーに合わせたカルチャライゼーションも大切ですので、日本で国際的なARGを展開する場合は、日本のことをよく分かっているパートナーと協力して欲しいと思います。

Q5. Have the Anime and Manga production houses incorporated them in to the Japanese media mix?

Q5. アニメや漫画の制作会社はARGをメディアミックスの一環として取り込んでいますか?


Q6. What differences, or similarities, if any, have you noticed between the Japanese media mix strategy and the Western transmedial production strategy?

Q6. 日本のメディアミックス展開と、西洋のトランスメディア戦略との間に似たところや違いはありますか?


アニメ業界の友人たちにも話を聞きつつ、以下の通り、お答えします。

日本のアニメや漫画のメディアミックス戦略と聞くと、雑誌やテレビ放送で日々目にするものを思い浮かべてしまいます。しかし、これらは、コミック誌の誌面であったり、テレビ放送の放映枠を埋め続けるために、日々、大量のコンテンツを生み出し続けているものであり、一つ一つにプロモーション予算や手間暇を多くかけられるわけではありません。

そうしたコンテンツが、テレビアニメと漫画など多メディアに展開しているのは、製作委員会方式という出資のフレームワークの影響が大きいと考えられます。製作委員会方式では、一つの作品に対して複数の会社が出資し、アニメを売る権利・漫画を売る権利・グッズを売る権利などを各社が分配します。そのため、戦略的にメディアミックスを行っているというよりは、各社が自社の利益を得るために行動することで、自動的に多メディア展開となるのです。その際には、世界観も物語も全く同じものを別の媒体で出すだけになることも多く、現場ではそうした形態をクロスメディアと呼んで区別することもあるようです。

こうしたケースでは、予算規模と人的リソースの問題から、ARGを活用するような新しい冒険は行いにくい、というのが、アニメ・漫画の多くの現場の現状と言えるでしょう。

さて、ここから先は、私見です。この話には、2つの観点で補足が必要だと考えています。

まず、ARG は本来はジャンルと言うより、生きた物語体験をデザインするという手法や考え方が本質であろうと考えています。その考え方さえ身につけることができれば、予算規模や人的リソースに制約がある状態でも、新しい価値を加えることは可能です。むしろ、コンテンツの消費速度がますます上がっている現在だからこそ、少しでも体験としてユーザの心に粘るような取り組みが必要となってくるはずです。

また、予算の点から言えば、きちんと計画された、大がかりなメディアミックスプロジェクトというものも存在することを忘れてはいけません。年に何本もあるわけではありませんが、体力のある会社や、大きな人気を取ったコンテンツを中心に、予算をある程度掛けたメディアミックスが展開されることがあります。そのメディアミックスの一環としてARGを活用することは、十分にありえるでしょう。本来は、西洋のハリウッド映画のトランスメディア展開と比較するのであれば、こうした数少ない大規模プロジェクトを(それでも予算規模に大きな差があるにせよ)対照として考えねばならないはずです。

もっとも、現実的にはこうした巨大なプロジェクトは多くの権利者がいますので、よほど求心力があるプロデューサが居ない限りは冒険することは難しく、結果として、日本で実績のほとんどない ARG という手法が選択される可能性は少ないでしょう(日本人は「前例」を大事にするのです!)。しかし、逆に言えば、もっと実績が出来るか、もしくは先見の明がある辣腕プロデューサが一人居れば、すぐにでも可能性はあるということです。

さて、結論をまとめますと、アニメや漫画の制作会社はARGを利用していません。余裕のないところが多く、不確実な新しいことを試みるにはたいへん厳しい状況です。しかし、個人的には、だからこそ ARG が価値を持つと信じています。様々なコンテンツ業界を支えている情報感度の高い人たちに ARG という手法が届くよう、少しでも ARG の実績を広げていくことが、私たちにできることだと考え、活動しています。


Q7. Is there anybody else you recommend that I also contact and ask further about this?

Q7. 他にこの件についてコンタクトをとったほうがよいお勧めの人はいますか?


広告でも、謎解きイベントでもなく、トランスメディアという観点からARGを眺めている人は、日本ではあまりまだ表に出てきていないというイメージがあります。

コンテンツをARGを使って伸ばすという立ち位置で制作を行っているコンテンツ制作者ということであれば、「名探偵コナン カード探偵団」を作られたメディアファクトリーの三原さんか、映画「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」のARGを企画したオフィス新大陸の坂本さんでしょうか。

もしも、この記事を読んで、研究に協力したいという方がいらっしゃいましたら、ARG情報局の右上に書かれている連絡先までご連絡くださいませ。先方に紹介させていただきます。

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