2013年11月9日

種子島ランドマーク実証実験(=ロボノARツアー)参加レポート

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(この記事は、えぴくすさん(@epi_x)に寄稿していただきました。)

10月25日から27日の日程で「平成25年度 準天頂衛星システム利用実証 種子島ランドマーク実証実験」に参加してきました(ソフトバンクのプレスリリース)。
今回の実証実験の参加者・関係者の主な Twitter つぶやきは「ARを駆使して登場キャラを探す旅in種子島 - Togetter」と「ARを駆使して登場キャラを探す旅in種子島 11月分 - Togetter」にてまとめていますが、量が膨大なため、コンパクトなまとめとしてこのレポートを作成します。
なお、この記事はこの実証実験でどのようなことが行われ、それに対して1参加者である私がどのように感じたのか、ということを今後の同様の試みの参考となるよう、率直に記録に残すことを目的としています。

と、思って書いていたのですが、マイナビニュースさんに素晴らしいレポート記事が上がっていますので、実験概要に関してはこちらを参照していただいたほうが分かりやすいかもしれません。

今回の実験および旅行ツアーについて


今実証実験は、経済産業省2013年度「準天頂衛星システム利用実証事業」の補助金(最大5000万円)を受けて、衛星測位利用推進センター(SPAC)とソフトバンクテレコムが実施するものです。なお、ソフトバンクモバイルは、産学官による高精度衛星測位サービス利用促進協議会の会員です。
経産省の公募の条件は: 「個人ユーザーの周遊が十分に把握できる一定の広域地域において、多数(100人以上)の個人ユーザーが準天頂衛星システムの測位補完信号・測位補強信号の利用実証を一定時間以上(8時間以上)行うこと」
そして、この公募に採択された本実証実験は、技術的には準天頂衛星・屋内測位システムの受信機の性能向上のためのデータ取得を、ビジネス面ではみちびきが位置情報サービスにとって即戦力たりうるかの確認や、みちびきの認知向上あたりをテーマとしているようです(実証実験の提案資料(PDF))。
今回と同じく、準天頂衛星「みちびき」と、ソフトバンクモバイルの観光ナビアプリ「ふらっと案内」を組み合わせた実証実験は、2年前の10月に北海道網走監獄でも行われています(GPS衛星みちびき×網走監獄!? 大規模実証実験レポートin北海道)。

今回、参加者に向けては、「ROBOTICS;NOTES(以下ロボノと略す)」というゲーム・アニメ作品の「ロケ地=聖地」である種子島に旅行し、「みちびき」を使ってAR(拡張現実)で表示されるキャラクターを島内で探す旅行ツアー「ARを駆使して登場キャラを探す旅in種子島」として案内されています。近畿日本ツーリストと角川書店の共同出資会社であるティー・ゲートが運営する「旅の発見」の企画です。
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羽田発着プランでは2泊3日で8万円〜という高額設定ではありますが、今回は実証実験のため、参加者先着300名に2万円の協力金が支払われるという、少々特殊な条件での募集となりました。
ツアーは10月25日, 26日, 11月2日の3日間の出発日が設定されており、それに合わせて実験も実施されました。10月の実験参加者は島内からの参加者も含めて80名程度(うちツアー客は30〜40名程度)で、トータルでは350名程度が参加したようです。(島内参加者には1万円の協力金が支払われたという背景は理解しておく必要があります)

ツアー参加者に対して参加者属性を簡単にヒアリングした限りでは、ロボノのファンが主流であるものの、旅行好きや宇宙好きの方が2万円のキャッシュバックに魅力を感じ参加されているケースも散見されていました。景品としてロボノグッズか島の特産品のどちらかを選べたことからも、運営側もそうした参加者の多様性を予想していたと思われます。
ツアー参加者の男女比は、男性のほうが高いですが、女性もいらっしゃいました(旅行会社のインターンシップの女子学生さんのグループが居たため、女性比率はさらに上がっています)。一人参加者がメインで、二人組・三人組が何組か、といった印象でしたが、後述する道中のトラブルや相部屋効果などもあり、種子島での行動では適度にチームを作って回っていたようです。

実証実験の概要


この写真の真ん中がみちびきからのGPS補強信号の受信機「QZPOD」ですが、これをスマートフォンにリンクさせた上で、左側の防滴ポーチに入れて首から下げ、島内を回る、というのが実証実験の内容です。
写真の受信機はAndroid用で、iOS用は色違いを渡されます。USB接続の充電器とセットです。バッテリは連続使用4時間ですが、すぐにスリープに入るので問題ないとの説明でした。
スマートフォンとは Bluetooth で接続します。Android 向けには OS 標準の Bluetooth 設定画面で受信機とスマホをペアリングしたうえで、ふらっと案内を起動するだけで OK。iOS はアプリ内の設定メニューから受信機のシリアル番号を設定することで(シリアル番号からデバイス名を組み立てて)アプリ内からペアリングを行います(普通にペアリングの記録が残っていたので、LE ではないようです)。

下のスクリーンショットが今回の実験で使用するソフトバンクモバイルの観光ナビアプリ「ふらっと案内」です。
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タイトル行の下のバーが青くなっており、精度の所に「QZSS」と書いているのが分かるかと思います。これが「みちびき」からのGPS補強信号を取れていることを示します。この場合、±0.9mですので、1m未満(サブメータ級)の測位精度が達成できていることになります。

さて、実験開始時の説明会では、ここまで説明されたところで、あとはご自由に、と解散し、島内観光となりました。

実証実験としては、終了時に提出するアンケートが重要となります。アンケートには、立ち寄った地点と回った順番、そこに行った理由を選択肢で記入します。
検証結果は国に報告されるほか、G空間EXPO2013アジア・オセアニアGNSS地域ワークショップなどで発表予定とのことでした。

今回の実証実験の検証対象についてもう少しご説明します。

1) 準天頂衛星「みちびき」の高精度測位

準天頂衛星「みちびき」は、国産GPS衛星と言ってしまうのが最も分かりやすいでしょう。みちびきの通常のナビゲーション用位置測位の機能としては、「GPS衛星の代わりとなる機能」と「GPSの精度を上げる機能」の2つがあります。

まず、「GPS衛星の代わりとなる機能」ですが、そのものズバリ、アメリカが打ち上げた GPS 衛星とほぼ互換の信号を出しています。もちろん、既存の GPS 装置にはみちびきは登録されていないので使えませんが、簡単なソフトの変更で使えるようになるという触れ込みです。
しかし、アメリカの GPS 衛星がすでに 30 機くらい打ち上げられているのに、今更1機加わってどうなるの?という疑問が出て来ます。
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これは北海道くらいの緯度で見えるGPS衛星の数を示した絵ですが、常に6〜10機くらいは見えていることが分かると思います。GPS は4機見えれば測位ができますから、十分に思えます。
この点に関しては、準天頂衛星ならではの魅力が活きる、というのが理由になるでしょうか。詳細は省きますが、準天頂衛星は特殊な楕円軌道を描いており、1日のうち8時間を日本の上空で過ごします。この時、高い仰角を維持しますので、ビルに囲まれている時でも衛星が見える可能性が高くなります。特に都市部や山間部での GPS 精度の向上が期待できます。

ここで、鋭い方は気づくかもしれません。種子島の空は狭いのだろうか、と。そうです。種子島ではみちびきの代替 GPS 衛星としての機能はあまり必要とされていないのです。そこで活用されるのが、もう一つの機能「GPSの精度を上げる機能」です。
GPS は、衛星内部の時計の微少なズレや、その他の環境要因により、精度が10m程度しか出ません。しかし、正確な位置が分かっている地上で一度 GPS 衛星の信号を受信して、その誤差を補正する情報を配信したら、精度をもっと上げることができます。これが「GPS 補強信号(誤差補正)」と呼ばれる機能です。
今回の実験項目の一つは、この誤差補正によって得られる1m未満(サブメータ級)の測位精度を確かめることです。
参加者に島内の様々なデジタルスタンプラリーのチェックポイントを回らせることで、各所で、みちびき受信機のGPS測定結果と、各自のスマホ側のGPS測定結果との突き合わせもしていたのかもしれません。AR表示で求められる画像認識は位置の条件がかなり厳しいので、AR表示を行えたタイミングの座標値を取得できれば、比較対象となる「正しい」座標も想定可能です。

2) 屋内でも位置情報を取得できるIMESを利用した屋内外のシームレス測位

みちびき受信機とふらっと案内には、IMES (Indoor MEssaging System) の受信機能が入っています。これを使った屋内測位の実験も行われていました。
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こんな IMES 送信機の近くにいくと、信号を受信して、ふらっと案内に、何番のエリアに入ったというダイアログが出ます。
IMES で送っている情報自体はとてもシンプルです。信号強度からの屋内測位などを行うわけでもなく、送信機が送っている位置情報をそのまま自分の位置情報として解釈します。また、ビット長は短いですが、スポットの固有IDを送ることも可能です。
IMES の最大の特徴は、GPS と似た電波信号を使っているため、GPS 用のチップで受信できるということです。屋外にいるときは GPS を、屋内では IMES を、とシームレスに切り替えることで、GPS の電波が届かない屋内でのナビゲーションを行うことを目的としています。そのため、緯度経度情報の送信フォーマットが標準で規定されているのも大きな特徴でしょう。
今回は、鉄砲館と宇宙科学技術館において、IMES 送信機が幾つか仕掛けられており、IMES が発する正しい位置情報を利用することで、屋内でも位置情報を使ったデジタルスタンプラリーが行えることを確かめていました。

3) 「みちびき」のL1-SALF補強信号を使用した衛星経由のメッセージ受信

先ほど説明した「みちびき」から送られている GPS 補強信号の一つが「L1-SALF補強信号」と言いますが、実験により、補強信号の送信頻度を半分くらいにしても、測位精度はほとんど変わらないことが分かっています。そこで、余った帯域を使って衛星からの任意メッセージの送信に使おうというアイデアがあります。
今回はその実証実験として、実験参加者に向けたアナウンスを衛星経由で何度か送信しました。受信すると、ふらっと案内の画面に受信メッセージが表示されます。参加者がそのメッセージを受信できたか、また、受信した結果、行動に繋がったか、などを調べています。
ちなみに、衛星放送の裏で契約情報など各受信機宛のメッセージが流されているようなものをイメージされるかもしれませんが、L1-SALF補強信号の通信速度は250bps。もろもろさっ引くと1秒間に25バイトしか送信できません。使い所がなかなか難しい。

4) 正確な位置情報を利用し、画像認識を組み合わせたハイブリット測位AR

この「みちびき」による高精度測位で、AR体験がどう良くなるか、というのが今回の実証実験の一つの肝ではないかと……思っていたものの、冷静に考えると効果検証がしにくいので、もしかしたら実験参加者を集めるための餌だったのかもしれません。もちろん、餌が美味しいからこそ、参加者は集まるわけですので重要です。
また、デジタルスタンプラリーと合わせて、高精度位置情報の社会応用の提案という側面もあるかと思います。
AR はふらっと案内上で見ることが出来ました。詳細は次節で解説します。この3DモデルをAR表示する機能は、今回の実証実験のために実装された物です。
ロボノでは、かつて(ノイタミナと近しい)カヤックがアニメ連動のARアプリを提供していましたので、今回もカヤックのARエンジンを持ってきたのかと思った方もいたようです。ただ、inside AR 2013 Tokyo でソフトバンクの方が登壇されている所を見るに、このカンファレンスの主催の metaio 社の AR ミドルウェアを利用しているのではないかと思われます。
metaio であれば、位置情報によるARも、画像認識によるARも対応していますので、可能性は高そうです。(4〜5年前はマーカーARだけだった記憶があるので、いつの間にか進化していたんですね……)
AR で高精度位置情報を用いた実証実験の技術的なポイントがあるとすれば、metaio の GPS 対応は当然ながら通常の 10m 精度の GPS を想定していますが、ここに 1m 精度の位置情報を入れたらどう体験が変わるのか、というところがあるでしょうか。
また、何度か関係者が、AR はハイブリッドで位置判定をしているといった発言をされていますので、AR 表示部分に関してもアルゴリズムの評価などの目的があったのかもしれません。

「ふらっと案内」の詳細


今回の実証実験の内容がイメージできるよう、もう少し詳細に観光ナビアプリ「ふらっと案内」の詳細について説明します。
ふらっと案内は、普段使いできるスポット情報アプリではありますが、今回の実証実験では、スポット情報に加えて、デジタルスタンプラリーと、キャラクターARという2つの追加機能が活用されました。
起動直後の画面は以下のようになります。
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種子島にある300以上のスポット情報をまとめたグループが「種子島」。そのスポット情報の中から7〜14箇所を抜き出してスタンプラリーになっているのが続く「〜ルート」という表示です。
この時、「ふらっと案内」に登録されている全てのスポット情報の中から、現在座標に近いスポット情報を含んでいるグループを順に出してくれます。これはふらっと出かけた先で近くのスポットの情報を得るためには素晴らしいインターフェイスかと思います。
しかし、今回のスタンプラリーコースが10コース設定されているという状況では、難しい部分もありました。詳細は後述します。
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「種子島」を開くと、カテゴリ選択の画面が出ます。種子島にはふらっと案内のスポットが322件登録されていることが分かります。チェックを入れて検索ボタンを押すと、スポット一覧が出ます。
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現在の位置情報を見て、近いスポットから順に表示されているのが分かります。さらに「種子島中央高校」を開くと、スポット情報が出ます。
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ページの上に「AR」というボタンがありますが、これが表示されているスポットが、キャラクターARが設定されているスポットということになります。
こちらの AR ボタンを押す・・・前に、メニューを開いてみます。
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「ここへ行く」を選ぶと、地図上で現在位置と目的地の表示が表示されます。(みちびきを掴んでいれば、誤差を示す青い丸は見えないサイズになります)
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この地図表示で目標の近くまで行き、その後、スポット情報に戻って「AR」ボタンを押す、という流れになります。AR画面は以下のようになっています。
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ほどほどに近いときはこの表示となります。左上のレーダー表示を見て、誘導されていきます。
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目標近くに行くと、具体的に何を映せばいいのかの指示が出て来ます。このあたりの段階的な誘導は、少しずつ目標に近づいているワクワク感があり、素晴らしかったと思います。
最後の指示は、ARの最終的なトリガーが画像認識(空間認識)の場合は「××を写せ」、位置情報の場合は「回りを見渡せ」という指示となります。この場は学校名のプレート周辺がARの認識対象でしたので、そのあたりを「正しい角度(スポット情報の写真でお手本が示されることが多い)」で写すと、以下のような AR 写真を取ることが出来ました。
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キャラクターARは、それぞれにモーションが入っており、好きな格好をしたタイミングに撮影することができました。また、タップして左右にドラッグするとY軸中心の回転もするため、自由度の高い写真撮影を楽しめました。ちょっとしたことですが、個性のあるAR写真を撮る上で、とても良い仕様だったと思います。

一方、デジタルスタンプラリーの方の使い方も説明しましょう。いったんトップに戻り、各スタンプラリーコースに入ります。
スタンプラリーの一覧画面は最初に示した画面写真のとおりですが、地図表示も可能です。
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デジタルスタンプラリーの判子は、この各チェックポイントまで行き、スタンプラリーのリストの中からスポット情報を開くと表示される取得ボタンを押すことでゲットできます。
近くに行っても押せない場合は、こちらは場所のヒントはありませんので、2Dの地図表示を見て、現在位置と目標地点を見比べて、スタンプが押せる場所まで移動する必要があります。
また、10コースあるデジタルスタンプラリーでは、チェックポイントが重複している場合も多いのですが、チェックインは各コースごとに行う必要がありました。
以上で今回の実験で利用したふらっと案内の機能説明を終わります。

1参加者の体験記


全ては台風に尽きます。10月25日はちょうど台風27号が九州の南方海上に来ていました。飛行機は順調に飛んだものの、鹿児島港から高速船が出ず、丸1日鹿児島にて待機でした。26日の10時の船で、ようやく種子島に渡ることが出来ました。
25日の昼過ぎから27日の昼過ぎまで丸2日間、種子島での行動時間がある予定だったのが、きっかり半分になった勘定となります。本来はスタンプラリーもやり、キャラクターARを探し、ロボティクスノーツの聖地巡礼も行う、という盛りだくさんのミッションを時間をかけて行うはずでしたが、24時間しか時間がありませんので、当然のことながら優先順位を付けて取捨選択することになりました。

今回は、私は一人参加でしたが、事前に Twitter 上で声をかけて、同じ一人参加の方々と計3名でレンタカーをシェアして一緒に行動しました。その3人とも優先順位は同じで、「聖地巡礼>キャラクター AR>スタンプラリー」でした。JAXAや千座の岩屋の観光は優先度高かったですが、聖地巡礼の一部というニュアンスも強かったように思います。

やはり優先順位が一番高くなるのは聖地巡礼です。これは、種子島に来ないと確実に体験できないものだからですね。ARが設定されておらず、スタンプラリーのポイントでもない、フラウの住み処や伊禮商店などへの来訪の優先順位は、明らかに他のARスポットよりも高いものでした。
話はそれますが、スコールやヨーグルッペなど、作中に登場した印象的な商品の写真がTwitterに上がる率はかなり高く、場所だけでなく、現地ならではのアイテム、という形での作品世界との繋がりというのも魅力があるのだと改めて感じました。プロダクトプレイスメントの効果の高さの証左なのかもしれません。

一方、スタンプラリーの優先度が下がったのは、最初は頑張ってみようかと思ったものの、宇宙科学技術館周辺で試行錯誤してもまったくうまくスタンプが取れなかったことと、スタンプを押すためのふらっと案内の操作が煩雑だったことから、今後、このような苦労を数十カ所のポイントで行うとしたら時間とメリットの割に合わないと早々に結論を出してしまったことがあります。10コース46箇所(重複除く)とポイントが多すぎたことも諦めの一つの要因です。

キャラクターARに関しては、同じモデルが複数箇所で使い回されており、「その場でないと見られない」というレア感が薄いことに気づいた瞬間にやはり優先度が下がったでしょうか。ゲームの世界観と繋がっている体験ができるようなARであれば良かったのですが、そうではないポイントも多く、種子島まで来た意味を感じられないものについては価値をあまり感じませんでした。もちろん、ネタ写真を撮るという別の方面で「ポジティブに」楽しむことは可能ですが、それは種子島じゃなくてもいいですし、カヤックさんのARアプリでもできることですよね。
その点、大型ロケット射点でのスメラギは、ゲーム内で登場するまさにその場所で、しかも降車不可の見学ツアーのバスの窓越しに見える、という制約が逆に臨場感を増す素敵な設置になっており、とても良かったです。
また、門倉岬など、ゲーム中で君島レポートというARアノテーションが付いていた現地では、まったく同じような表示がされ、作中での演出そのままを体験できたという点に関しては、まさに種子島でARイベントをやった意味があったと言えるでしょう。しっかり作りこんでくださった現地コーディネータの川島さんに感謝です。(私は拡散まで体験し損なっているので、他の参加者の方のツイートを引用します)
これは作中シーンの再現となりますが、こうした、聖地巡礼の地に作品の世界観を再現するためのAR活用ということであれば、ファンはとても喜ぶのではないかと思います。

なお、会期中の正午付近に、みちびきを使った緊急メッセージ配信の実験も行われておりましたが、TL を見ても、周りを見ても、気づいている人を見つけることが出来ませんでした。これは、スポット間の移動時にはふらっと案内は点けていないため、首尾良く受信できる可能性がそもそも低いことと、(私の場合は朝陽が出る前から活動し続けていたため)昼には QZPOD のバッテリが切れてしまっていたことが、原因として考えられるでしょう。なお、配信された内容を種子島高校放送部の皆さんに見せていただきましたが、旧空港の開放時間を伝えるだけのものでした。せっかくのスペシャルなメディアなので、既知ではないスペシャルな情報を伝えられれば、もっと参加者の注目が集まったかもしれません。

種子島での周遊時間が予定の半分となったものの、十分に満喫したひとときを過ごせましたが、それもひとえに良い同行者に巡り会えたからだとも感じています。こうしたツアーでは一人参加が多いという傾向は明らかになりましたので、次に同様のツアーをするときは、現地でチーム作りをするところからイベントの一部として設計してもらえたら、参加者はより楽しめるのではないかと思います。

率直な感想と提案


最後に、実験の各要素への率直な感想と、もしも自分が企画側の立場だったらと考えた時の簡単な対案を示して終わろうかと思います。

高精度位置情報について

正直なところ、今回のスタンプラリー&キャラクターARにおいて、ユーザ体験的には高精度位置情報はほとんど不要だったかと思います。
スタンプラリーについては、GPSの5m精度が出ていればスタンプ獲得に普通は困らなかったはずです。後から思い返せば、取得がうまく行かなかったポイントは IMES 前提のポイントで、IMES がうまくつかめなかったのが原因だったのだろうと思います。
逆に1m精度までの誘導が必要なスタンプラリーをやらせたいのであれば、今のふらっと案内のインターフェイスは不適切です。スタンプラリーの画面でも、もっと、地図などを使った歩行ナビゲーションを全面に押し出さないと、操作が煩雑すぎて、スタンプラリーの魅力より操作の面倒さが上回ってしまいます。
 キャラクターARに関しては、AR画面でレーダー表示が出るため、1m精度の歩行ナビゲーションという意味では適切だったかもしれませんが、なにぶん、現地で写さないといけないものの指示が具体的にもらえますので、最終地点への GPS でのナビは不要です。

唯一、高精度位置情報を活用できるのは、位置情報を元にした AR 表示となるかと思います。大型ロケット射点でのスメラギのARなどは非常にうまい使い方の一つです。別々の場所に居る人が同じ場所にARの存在を見ることができるので、ARでありながらも共通体験を提示することが可能です。これは、人によって10mくらいずれてしまったり、補正でジワジワ動き続けてしまう通常のGPSでは実現できない、貴重な体験です。
なお、せっかく位置情報の精度が良くても、電子コンパスの精度が悪いと台無しですので、おそらくは近距離からでかい物を見上げるような類のARが、一番矛盾なく共通体験を提示できるかと思われます。次回があれば、こうしたものを活用していただければと感じます。

IMES について

IMES の技術的なアドバンテージは残念ながらもう失われつつあろうかと思います。iBeacon を代表とした Bluetooth LE を使った屋内ビーコンが一気に普及しようとしているからです。
IMES の利点は GPS と同じ信号なので他のチップが要らないという点ですが、IMES が対象としている屋内の歩行者ナビゲーションでメインターゲットとなるスマホにおいて、Bluetooth は標準装備となっています。まだ Bluetooth 4.0 に対応していないスマホも使われていますが、IMES が民生機器に組み込まれるより早く普及するでしょう。
発信器側の機材も、Bluetooth LE は最初から省電力向けに作られていますので、(電波の発信頻度に依りますが)ボタン電池で1年もつコインサイズの発信器が1つ$25で買える現状があります。iBeaconのiOSでの標準サポートなどの流れも考え合わせると、IMES の実現したいビジョンのひとつの、場所のIDをサービス提供者に送って、その場所ならではのサービスを受ける、といった応用は早々に Bluetooth でデファクトスタンダードが確立してしまいそうです。
IMES に残されている利点は、標準で緯度経度情報のフォーマットが決まっているという点ですので、GPS とシームレスに緯度経度情報を提示できるというその点に特化して考えていったほうがよいように、私には思われました。あとは Bluetooth LE では実用的な到達距離が10m程度なので、100mくらいカバーできるようにして、屋内エリアを面で対応できるようにする、という方向にいければ IMES の独自性を出せるかと思いますが、微弱無線の範囲でどこまでできるのかが問われそうです。

ふらっと案内について

いくらなんでも強制終了しすぎではないだろうか、というのが最初の感触です。あれだけ落ちると、実験に対して、大きなノイズになってしまっているのではないかと心配します。実際、私もふらっと案内をできるだけ操作せずに済ますには、どうすればいいかを考えながら行動していました。(結果、早々にスタンプラリーは優先度が下がりました)

また、空間検索をして近距離のスポットから順に表示するというふらっと案内のコンセプトはとても素晴らしいものだと思うものの、こと、今回の実証実験に関しては、マッチしていないとつくづく感じました。
今回は、行きたい場所と関係ないスポットが「種子島」に大量に登録してある上に、複数のスタンプラリーを同時に回らないといけないという設定でした。この状況下では、ふらっと案内をナビゲータとして利用するうまい方法を私は思いつけませんでした。行く必要のある場所を事前に書き出した上で、紙の地図上でルート選択をし、ふらっと案内はARを見たり、スタンプを押すためだけに起動する、という使い方が最適のように思えました。

今回の実証実験で何を実験したかったのか未だに把握できていませんが、ARを設定しているスポットだけのカテゴリなどを用意していただけていれば、まだその中で最寄りから寄っていこうかという形でふらっと案内のナビゲーションを活用できたかと思います。
また、スタンプラリーも何かの意図で10コースに分けたのだとは思うものの、ふらっと案内がそうした用途で快適に使えるようになっていませんでしたので、楽しさよりも苦行が勝っていたように思います。

もうひとつ、階層を行き来するだけでロードが発生するのもなんとか対応していただきたかったポイントです。広い日本、回線が細い場所はたくさんありますので、ある程度ローカルにキャッシュしていただければと思います。特に、スタンプラリーは開始したら、電波が無いところだろうとローカルデータだけでスタンプを押して回ることができ、賞品と引き替えるときに初めて通信する、というくらいの設計にしないと、今回のような人口密度の低い地域でのスタンプラリーでは、電波が無くてスタンプを押せない箇所ができたりと、非常に運用が危ういことになるかと思います。
AR モデルのデータを事前に一括ダウンロードできる機能があるなど、ふらっと案内の開発者の方も細い回線のことを意識はしていらっしゃるのだと思いますが、AR の前に、そもそもスポット情報に辿り着くまでも、切り替える度に重くてたいへんだった、というのが感想です。

みちびきの活用方法

それではみちびきを有効に活用するにはどういう応用があるのでしょうか。今回得た知識や体験を元に、個人的な意見をいくつか述べさせて戴ければと思います。私はエンタテインメント畑の人間ですので、娯楽用途に絞っての提案となります。

まずは、GPS地上絵の道具としては、サブメータ級の精度も、高仰角での補完信号も非常に役に立つでしょう。実はすでにみちびきアートという名で実施されているようなのですが、GPSの移動記録を使って地上に絵を描くという遊び(アート)です。
私も、北京オリンピックの時に全世界で実施された代替現実ゲーム "The Lost Ring" にて、紆余曲折の末、全世界のプレイヤーで協力して各都市に移動経路でラビリンスを描かないといけなくなったときに、GPS ロガーをもって京都の街を自転車で走り回ったことがあります。この時、京都市街の狭い路地に背の高い建物が密集している中で、たいへんな苦労をしたことを覚えています。
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こちらはブエノスアイレスで綺麗に描かれたラビリンス。一方、京都のGPSロガーの結果は……。
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海外から crazy とか weird などと賞賛(?)されたことを覚えております。これも、みちびきがあれば、もっと綺麗に描けていたことでしょう……。

また、GPS 座標を用いた宝探しにも高精度位置情報は有用です。GPS 宝探しと言えば、全世界に200万個以上の宝が隠されているジオキャッシングが代表です。ジオキャッシングは、大まかな場所が GPS 座標で示された後に、その現地に隠された宝(フリスク〜タッパーサイズのケース)を探す遊びです。
実際に私がジオキャッシングをプレイしたときにも、GPS 座標の精度が信用できずに、探索範囲が数十メートルの範囲で定まらず、結局諦めるというケースもたくさんありました。特に、ビルの影などのポイントは、隠した側が測定したGPS座標がそもそも正確なのかなども含めて、疑わしい気持ちになってしまうこともしばしばです。
高精度位置情報で的確に宝の周囲数メートルまで案内してもらい、そこでおもむろに宝を探して見つけられれば、探索能力が低くても楽しめるゲームになるかと思います。

さらに、宝探しだけではなく、位置情報を使ったゲームにも活用できるでしょう。例えば、Android 版アプリがついに正式公開された Google の位置情報ゲーム Ingress では、現実に存在するパブリックアートを「ポータル」というゲーム上の存在に設定して、そのポータルを2陣営で奪い合います。このポータルへの攻撃は現在位置から行いますし、防衛側も防御アイテムを精密に配置しないといけませんので、現在の GPS の悪い精度は非常にプレイ感を損ねています。高層ビルが林立する六本木ヒルズのポータルに関しては、如何に GPS 信号を取るかの口伝の「攻略法」があるほどです。ここに、みちびきの高精度位置情報が導入できれば圧倒的にプレイ感が良くなることが見えています。個人的にはとても期待しています。(なお、Ingress は陣取りの位置情報ゲームであると同時に、詳細な背景設定を持った Niantic Project という代替現実ゲームの一部でもあります)

あとは、前述した高精度位置情報に基づくAR表示も「みちびき」で良くなる例でしょうか。例えば、広場にたくさんの人が居る状況で、数mの精度で同じ場所にARを表示できるとなると、みんながスマホを掲げてある1点を見ている、という光景が見えるはずです。この状態でARを移動させれば、ARを皆が追いかけていく様子を眺めるだけで、外の観察者自身はARを見ていなくても、見えない何かが通っていく感覚を得ることができるはずです。肉眼では見えないのに、周りの人も同じようにARを追いかけて行くという体験は、強い共有体験として印象づけられることでしょう。

他にも、サブメータ級の精度を活かした遊びとしては、人混みの中を歩いているターゲットを、ターゲットが持っている発信器の高精度位置情報から見つけ出すスパイごっこや、一人一人はスマホに表示された GPS 情報に基づく移動指示に従うだけで、みんなでマスゲームを正確に行う遊びなどなど、さまざまな物が思いつきます。また、GPS は正確な時間に全員が同期できることが特徴ですので、同報メッセージと合わせて色々面白いこともできそうですね。想像が膨らみます。

デジタルスタンプラリーもシンプルで分かりやすいですが、高精度位置情報がないと実現できない応用をもっと示してもらえると、皆、みちびきに夢を見ることができるのではないかと感じます。

現実世界を用いた遊びの設計に関しては、ARG(代替現実ゲーム)界隈の制作者はアイデアやノウハウをたくさん持っていますので、何かうまくみちびきの新しい実証実験の提案と結びつけられればいいですね。

さいごに


台風やらなにやらでいろいろ思うようにいかない種子島旅行でしたが、よい思い出になりましたのは、関係者・同行者の皆さまのお陰でございます。改めて御礼申し上げます。
ただ、前述したとおり、実証実験に関しては、データ取りはともかく、準天頂衛星のPRという面では、みちびきの魅力を100%私たち参加者に伝えられていたとはなかなか言えない内容だったかと思います。今後も、よりよい実験でよりよい効果実証をしていただき、ぜひ QZSS 7機体制に向けて、着実に実績を積み重ねていっていただければと願っております。

関連リンク
ソフトバンクのプレスリリース
ROBOTICS;NOTESのARキャラを探す「みちびき」実証実験 in 種子島レポート | マイナビニュース

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