ここでは、ARG の楽しさを、要素ごとに事例紹介することで、少しでも全体像に近づいてみましょう。
なお、以下に述べる ARG の構成要素は互いを支え合い、ひとつの密度の濃いプレイ体験を生み出しています。そのため、これらの要素は厳密には切り離すことはできません。
ストーリーの楽しさ
ストーリーは ARG の全ての要素を一本に繋ぐ、背骨のような存在です。魅力的なストーリーがあればこそ、プレイヤーは広大な現実世界から物語の欠片を探し出す、辛く長い航海に、喜んで出かけるのです。一般的には、現実世界の住人である我々が参加できるような、SF やミステリー、サスペンスの物語となります。
- 壮大な SF ストーリー
- あるとき、世界各地で6人の記憶喪失の男女が見つかる。彼らの共通点は、ラビリンスに倒れていたことと、謎の入れ墨、そして鍛え抜かれた身体。 混乱する彼らを手助けするプレイヤー達は、やがて、彼らが古代に封じられた秘密のオリンピック競技の選手であり、並行世界の崩壊を止める鍵であることを知る……。
- The Lost Ring での事例
- ディストピアの未来
- Year Zero での事例
トランスメディア の楽しさ
トランスメディア (transmedia) とは、複数のメディアを横断して物語が展開されることを言います。これまでの物語は、小説なら書籍、映画なら銀幕という1つのメディアの中だけで完結していました。それに対して、小説とウェブとリアルイベント、のように、複数のメディアで一つの物語のさまざまな側面を描くことにより、物語の存在感が大きく高まります。
テレビ・映画の単体でのストーリーテリングはもう古い!と思っているクリエイターは、アメリカを中心として徐々に増えてきているようです。
- 現実と電話とネットと
- サイト上で発見した日時と GPS 座標のリストは、全米各地の公衆電話を示していた! 指定日時にその公衆電話へ行ってみると、突然電話が鳴り出す。おそるおそる出ると、電話の相手は宇宙船の AI であった。電話に出ることで Web 上でオーディオドラマが進展し、時にはプレイヤーと AI(を演じる役者)との会話も公開された。
- I Love Bees での事例
- 自分も参加できる冒険小説
- 39 Clues での事例
- ラスベガスの噴水をジャック
- Windows Vista のARG、Vanishing Point の最初のイベントは、ラスベガスで開催。指定された時間になると、あたりに鐘の音が響き渡り、噴水にLokiの姿と新たな謎が映し出された。
- Vanishing Point での事例
謎解き の楽しさ
ARG でみんながぶつかる最も一般的な障害、それが謎(パズル)です。情報の欠損により意味が分からなくなってしまったものから、本格的な暗号文まで、ARG ではあらゆる謎のバリエーションが登場します。難しい謎を、みんなであーでもないこーでもないと言いながら解いている時間が、ARG で一番心地よく楽しいのかもしれません。- 難しい謎を皆で解く楽しさ
- 盗まれたテディベアを取り戻したければ、5日で10問の謎を解け! 数学・化学・文学・音楽などの専門知識が必要な問題から、柔軟な発想が必要なパズルまで、歯ごたえ十分な謎を、プレイヤー全員の知識と知恵を総動員して解いていく。
- 盗まれたテディベアを取り戻せ!! での事例
- 動画から情報を拾い出せ
- 防犯カメラに若い女性の誘拐シーンが写っていた! この誘拐された人物は誰なのか? そして、誘拐犯の目的は? 画像の中に残されたヒントを元に、インターネットを検索して解き明かせ。
- RYOMA the Secret Story での事例
- 多重構造の謎を解き明かせ
- 一見すると、パズルがたくさん載っているトレーディングカード。しかし、パズルを一定数解くたびに届くメールや、カードの裏面を組み合わせて出てくる情報を元に推理を進めていくと、徐々に過去の未解決事件の全体像と、「制作者」が込めた想いが浮かび上がっていく。
- 名探偵コナン カード探偵団 での事例
ミッション の楽しさ
ARG で課される障害はパズルだけではありません。何月何日にどこそこへ行け、や、友達10人とこんな事をして写真を投稿しろ、といったミッションが課されることもあります。特に、複数人で協力しながら、現実を舞台に行わねばならないミッションは、どう転んでもとても盛り上がります。
- 失われたオリンピック競技を全世界で競え!
- 失われたオリンピック競技は、人で作ったラビリンスを目隠しをして走り抜けるものだった。チーム東京は、厳しい(?)練習を重ねた結果、Multiverse Olympiad にて8秒43で金メダルを取る。
- The Lost Ring での事例
- 馬鹿馬鹿しいことを世界中の人が真面目にやる面白さ
- 世界の崩壊を防ぐため、特別なパワーを持っているラビリンスの文様を、世界中の都市で描け! 世界中の参加者が GPS 機器を持って、街中を走り回り、その様子を写真や動画にとって公開した。 地図上での移動の様子は、まとめWikiに記録が残っている。
- The Lost Ring での事例
- 皆が見守る中でのバックギャモン勝負!
- それまで、メールで一方的に情報を送ってきていた「遠くから見守る者」と名乗る人物が、ついに対話の舞台に立つことに。しかし、条件はバックギャモンで勝利することだった。他のプレイヤーが見守る中、代表者が何とか勝ち、ついに重要な情報が語られたのだった。 なお、その後、別の登場人物とも勝負をすることに。こうしたアドリブ展開もARGの魅力のひとつ。
- RYOMA the Secret Story での事例
インタラクティビティ の楽しさ
ARG の魅力の一つに、人間が進行をコントロールしているために、いくらでも柔軟な対応が可能であることが挙げられます。登場人物にメールを投げたら、丁寧な返信が届くかもしれませんし、行動によっては、キーパーソンの生死すら左右するかもしれません。
そこに、決まった筋を辿るだけの物語メディアとの、根本的に異なる楽しさがあります。
- 登場人物と共に行動する楽しさ
- 敵組織の秘密の取引が判明した! プレイヤー達は、取引場所に実際に向かい、味方の登場人物と合流して監視を行う。実際に店まで入ろうとしたその時、階段ですれ違った男が、突然、身を翻して逃亡した。男を追いかけた先の公園で、ついに男を取り押さえ、重要なアイテムを奪還する。
- RYOMA the Secret Story での事例
- 敵勢力をスパイせよ!
- 多世界の脱シンクロを望む敵勢力が妨害を仕掛けている。敵に取り入り、彼らの企みをスパイせよ! なお、メインキャラクターたちのだれかも裏切っているかもしれない。誰にも知られず、注意深く事を運ばねばならない。また、裏切った理由を聞き出し、それぞれの望みを叶えるのだ。(日本語での状況説明ページがありますが、秘密裏に行うために公式フォーラムが使えず、当時はたいへん混乱していました……)
- The Lost Ring での事例
参加者コミュニティ の楽しさ
コミュニケーションは、ARG の基本となる要素です。ARG は、次に何が起こるか分からない、ワクワク感の塊の娯楽とも言えます。そのワクワクする気持ちは、仲間と共有することで、何倍にも膨れあがるのです。広大な Web をみんなで手分けして探し回ったり、多人数が必要なミッションを協力して遂行したり。時には、チーム戦的な仕掛けでお互いの裏をかきあうことすら、楽しみとなります。
困難な課題を与えられ、それを協力して解決する経験を通じて、コミュニティの繋がりは深くなります。こうしたソーシャルな楽しみは、ARG の大きな魅力の一つと言えるでしょう。
- 世界各地で競うお祭り騒ぎ
- 最凶の悪役、ジョーカーの暗躍をこれ以上許してはならない! ゴッサムシティの地方検事には、法の力で悪を裁く、ハービー・デントを就任させよう、という(架空の)選挙活動が全米で行われた。プラカードを持った参加者が各地でデモ行進を行い、その様子の動画や写真が公開された。
- Why So Serious? での事例
- 日本中の参加者が協力して
- 敵対組織が狙っている短冊を、プレイヤーに託したいという連絡が届く。受け渡し場所は、大阪・横浜・博多・京都・東京。全国のプレイヤーが協力して全ての場所に受け取りに向かい、掲示板に受領報告が次々と上がったのだった。
- RYOMA the Secret Story での事例
- ARGが結ぶ縁
- 長期間のARGに参加していたプレイヤーたちは、ARGが終わったあとも交流を持ち続けることが多い。日本初のARGである AI/HA では、ゲームで出会ったプレイヤーが後に結婚したという事例も。
- AI/HA での事例
驚き・感動
ARG は、生身で体験するイベントが多いため、既存のメディアでは得られない興奮を味わうことも多々あります。特に、参加者を増やすための広告塔として行われる大がかりなリアルイベントは、バイラル効果を出すための強烈なインパクトを企図して行われるものが多く、あとで当時の動画を見るだけでワクワクするものばかりです。
もちろん、ささやかであっても、物語の積み重ねていった結果、自分だけの感動を得られるケースもあるでしょう。
- 空を見上げると……
- イベント会場にて、怪人ジョーカーからのメッセージで広場に集められたプレイヤーの頭上に、突如、飛行機の編隊が飛来する。 飛び去ったあとには、飛行機雲で電話番号が残されていたのだった。
- Why So Serious? での事例
- ただのケーキと思ったら……
- ジョーカーが示した全米22カ所の住所は、ケーキ屋だった。指示通り「ロビン銀行のケーキを」と注文して受け取ったケーキには、"Call Me Now" の文字と電話番号のアイシングが。さらに、その番号へ電話してみると、なんと、ケーキそのものが鳴り出したのだ! ケーキの中を開けてみると、中からジョーカーとの連絡用の携帯電話が出てきたのであった。
- Why So Serious? での事例
- 音声波形の分析をしてみたら……
- Nine Inch Nails のヨーロッパツアーのポルトガル会場のトイレから USB メモリが見つかった。そこには、未リリースの新アルバムの楽曲の MP3 が入っており、曲の最後には謎のノイズ部分が……。スペクトログラム解析を行ったところ、天からさしのべられる手の画像が現れた。同じ日に会場で販売されたTシャツから辿り着いたサイトから、ディストピアの未来と向き合う ARG が始まる。
- Year Zero での事例
現実探索感 の楽しさ
ARG が、他のゲームと異なる大きなポイントは、ゲームの範囲が明示されていない、ということです。テレビゲームであれば、テレビの中で主人公が行ける場所は決まっています。鬼ごっこでは、通りすがりの郵便屋さんが実は鬼だった、なんてことは起こりません。一方、ARG では、事前の約束ごと(ルール)は一切ありません。あえて言えば、「現実のように考える」がルールです。ARG のプレイ中には、制約のない広大な日常空間を、情報を求めて探し回ることになりますが、そこには宝探しの持つ独特の楽しみがあります。これを、ここでは「現実探索感」と名付けてみます。探す範囲が広く、知恵を絞り、時には足で稼いで探し回るからこそ、見つかった時の喜びはひとしおです。
また、インターネット上での探索だったとしても、事前に与えられたルールがない状態で、現実世界のルールだけを頼りにあれこれ試しながら探索する感覚は、「現実探索感」と言ってもいいでしょう。
もっとも、本当に何も制約なしで現実世界にプレイヤーを放り出すと、皆呆然と立ち尽くしてしまうこと請け合いです。良くできたゲームでは、制約と自由度のバランスを巧みに取り、気持ちよく遊べるようにデザインしています。
- キーアイテムを現実世界で探し回る楽しさ
- 古の測距法 Omphalos Code が指す距離と方角に従い、地図上にラビリンスを描くと、その中心は東京、神楽坂だった! 神楽坂周辺の画廊を探索するプレイヤー達は、ついに、五大陸に散らばる5つのリングの一つを発見する! 第一発見者は一抱えもある金属製リングを自宅に持ち帰ることに。
- The Lost Ring での事例
- ネットとリアルの協力プレイ
- 北米最大のコミックイベントである Comic Con の開催に合わせ、Whysoserious.com がオープン。サイトは、Joker からの挑戦文とパスワード入力欄が表示されており、パスワードを入力すると次のミッションが表示されるという仕組み。ウェブで謎を解く担当と、現地で探索する担当とが協力し、十数個も用意されたミッションをクリアしていった。
- Why So Serious? での事例
- 仕掛けが満載のWebサイト
- http://interdimensionalgames.com/ を訪れると、最初は人工衛星の情報ページと思えるサイト(英語)が開く。しかし、しばらく待つと画面内で日食がおき、次元を越える扉が現れる……。異次元から送られてきた5本の映像をヒントに、Web サイトに隠された謎の調査が始まる。
- iDGi-1 での事例
代替現実感 の楽しさ
最後の魅力は、代替現実感です。ARG を ARG たらしめている根幹。ARG の魔力の全ての源。この物語は現実と地続きかもしれない、という気持ちの良い錯覚を、いかに丁寧に演出してくれているかがポイントです。現実と物語の線が曖昧になるあの不思議な感覚が、プレイヤーを強く惹きつけ、さまざまな無理難題に立ち向かわせる動機となり、コミュニティを盛り上げる原動力となるのです。
なお、ただ現実と紛らわしく事件を起こせばいいわけではありません。「気持ちのいい錯覚」が重要です。自分が犯罪に巻き込まれるかも、という不安が残るようなやり方は、多くの人を警戒させてしまいますので、要注意。
- 現実と虚構が混じりあう楽しさ
- 坂本竜馬を暗殺した謎の組織に連なるものは誰か!? プレイヤーの前に示されたのは、教科書にも載っている民選議院設立建白書。この署名に名を連ねている人々は、果たして、謎の組織か、その敵か?! 史料とフィクションが混ざる中、あったかもしれない歴史の裏側を追体験する。
- RYOMA the Secret Story での事例
- リアリティのあるマテリアル
- 死んだと思われていた重要人物、可士生礼が実は生きているという噂が流れる。調べを進めていくと、リークした秘密組織の内部メールのグーグルキャッシュのコピーと思われるリアリティの高いページが見つかった。
- BUBBLEGUM での事例
- あの映画のワンシーンが目の前に
- 北米最大のコミックイベント Comic-Con 2009 に合わせて開催された街中での探索イベント。参加者達が最後に辿り着いた場所は、オリジナルの TRON の劇中で出てきた FLYNN'S ARCADE そのものだった! なお、翌年の Comic-Con 2010 では、さらに FLYNN'S ARCADE の隠し扉から、TRON: Legacy の劇中で出てくる END OF LINE CLUB へと導かれた。
- FLYNN LIVES での事例