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2016年5月17日

ARGのNetflix化を目指す! ~ゲーム小説『お前らは現実とゲームの区別がつかない』著者インタビュー~

澤田 典宏さんといえば、『ぼくらの選択』をはじめとしたARG制作や、ARG考察サイト『だいたい現実』の運営などで日本のARG界に大きな影響を及ぼしている一人です。

その澤田さんが小説『お前らは現実とゲームの区別がつかない』を5/25に出版すると聞いて、とうぜん普通の小説など出すはずもないと期待したものの、公式サイトや紹介記事を見ても、今ひとつどんなものなのか分からない。

じゃあ、本人に直接聞いてしまえ!とばかりにお願いしたのがこのインタビュー。もちろん『ARG情報局』ですので、その方向からのディープなお話をたっぷりお届けします!(インタビューアー:石川淳一)


──まずはこの企画の経緯を聞かせてもらえますか? これって澤田さんが旗振り役で始めた企画なのでしょうか?

澤田 元々は編集者である飯田一史さんを介してのお話でした。飯田さんというのは『ウェブ小説の衝撃』などを書かれている著作家でもあります。
飯田さんとは、その前に一迅社様の雑誌(Febri Vol.27 体験型謎解き/脱出ゲーム特集)で謎解きゲームやARGについて話していたこともあり、企画としては最初から「小説(ラノベ)がなんらかの形でアプリと関係している」ものでした。



──じゃあ、編集サイドからある程度イメージがあったのですね。

澤田 そうですね。出版社(ジュリアンパブリッシング様)側は新規でラノベを発売して市場を開拓したいという考えがあり、そこに編集者である飯田さんがラフな企画アイデアを投げ、並行して僕にお話が来たという形です。

──なるほど。小説+アプリという組み合わせに注目した理由は何だったのでしょうか?

澤田 出版社側の意図は普通に小説を出すよりも幅広い展開が考えられるといったところかと思います。
僕としては「ひとりでも遊べるARGを作る」とか「ARGとして独自のコンテンツを作る」といった考えがまずあり、それに対して小説とアプリの組み合わせの相性が良いと考えていました。
じっくり行間を読む本という比較的、個で楽しむメディアと、アプリというこれまた自分のペースで遊ぶことが前提のメディアの相性とでもいえばいいでしょうか。
ARG情報局向けにマニアックなことをいえば、「The Beast」「 A.I」「I love Bees」といったARGの開発に関わったゲームデザイナーのジョーダン・ワイズマンも、一連のARGを作ったあとに『キャシーの日記』というARG小説をシリーズで出版しましたが、それと同じような模索をしているともいえます。

──ちょうどARGという言葉が出てきましたが、澤田さんがやるとなるとやはりARG的な要素がどのくらいあるのかとても気になるのですが、そのあたりはどうでしょうか?

澤田 先ほども少し触れましたが、目標としたコンセプトは「ひとりで遊べて、しかもリアルタイムでイベントを追わなくても楽しめる新しいARGの形」ですので、いわゆるARG的な要素は可能なかぎり盛り込んでいます。
公開されているためし読みの範囲に限っても、すでに現実に存在しているものはいくつかありますよ。



──いま先行公開されている小説はリアルタイムにARG的な話が進んでますよね。ところがさきほど「リアルタイムで追わなくても遊べる」とおっしゃったのですが、読者は出版と同時にリアルタイムで参加するようなARGではないということですか?

澤田 出版と同時にゲームに参加していただければ、話題に乗ることもできるので従来のARG的な楽しみ方ができます。ですが、話題に乗り遅れたからとか、他人のゲームを攻略するスピードについていけないからといって、ゲームを楽しめないつくりにはしていません。
この点についてですが、これまでのプロモーション系ARGでは、プレイヤーに一定期間内にゴールまで完走してもらうことが大前提だったので、運営(パペットマスター)からの誘導も含め、いろいろとユーザーに親切だったと思います。
しかし、今回はオリジナルコンテンツとして独立しているので、そういった縛りを気にせずに小説を起点とした世界の断片を現実にまき散らすだけまき散らして、みなさんに自由に探したり、勝手に妄想したりすることを楽しんでもらおうと思っています。

──完走してもらう必要がないというのはゴールをARGとしては特に作らずに、世界観とかいろんな仕掛けを楽しんでもらうような?

澤田 小説の中にゴールはひとつありますので、そのゴール以外のゴールを探してもらえればと思っています。プロモーション系ARGでは、最後のオチが「映画の予告編的に物が欲しくなる(買いたい / 見たい)」ことが多いのですが、今回は小説を買っていただいた(読んでいただいた)前提なので、「もう一度、読み返したくなる」系とでもいえばいいですかね。

──あと、特徴的なところはさきほど話のあったアプリ『LIVE SCOPAR』との組み合わせなのですが、具体的にはどのような使われ方をするのでしょうか?



澤田 出版に合わせてメニューが追加され、小説の中と同じ操作をすることで、機能的に若干の違いはありますが、アルティメット・ミッションという謎解き(?)ゲームに参加することができます。もっとも出題されるミッション(問題)は、小説とまったく同じものではなく解き方のパターンが似ているなど、小説とは関係なく(純粋に謎解きの問題として)楽しめるようになっています。
問題の内容については、問題が提示されて正答をするようないわゆる謎解き形式のものから、暗号文を解いたり、ある人物を探るようなARG的なものまで、いろいろと考えています。まだ調整もしています(笑)

──ああ、アルティミットミッションに小説と同じような流れで参加できるけど、問題そのものはアプリオリジナルという感じなのですね。

澤田 そうです。同じものが出てくるかもしれませんが、それだけではありません。

──ゴール以外のゴールを探すことが一つのARGになっている?

澤田 小説では語られていない部分をゲームを通じて知ったり、小説に描写はあるけれど普通は見落とすようなものにゲームから気づかされたり、逆にゲームから得たわけのわからない情報が小説のある場面につながったりといった感じで、小説をアプリが補完したり、アプリが小説の1文に急に意味を持たせたりするような多重構造を楽しんでいただければと思います。様々なものが互いに侵食し合うことこそがARGの醍醐味かと。

──澤田さんが書くだけあって、かなりの重層構造が期待できそうですね。

澤田 先ほどのアプリの問題に話が繋がるのですが、つまり「謎解き的な問題もあるけれど、その端々には小説との絡みを連想させられるような情報があります」ということですね。その情報をさらに追うのか、もしくは追うことになるのかは、みなさん次第ですが。

──なるほど。単に解くのではなく、問題すらも世界に巻き込んでいく感じですね。

澤田 小説に出てくるさまざまな情報の断片(アカウントだったり、URLだったり)を、自分で探してみる→そのアカウントなりが実在するといった楽しみから始まり、もしかして小説内の他のアカウントやURLも実在するのでは→探してみたらあった、まさか明示されていないものもあるのでは→探してみたら……といった構造や、そこには小説内で主人公が見落としていた情報があり、そこから……といった展開を楽しんでいただければと。

──ああ、そういう広がり感、大好きです(笑)
ちなみに、ネタバレになるかもしれませんが、小説やアプリ以外にも使うメディアや現実空間はけっこう多岐にわたる感じなんでしょうか?

澤田 メディアや現実空間については、ARGのお約束でもありますのでクロスメディア的に使います(もう使っていますし)。多岐になるかは秘密です(笑)

──やっぱり秘密ですか(笑) ちなみに、ARGというより、メディア展開として小説やアプリ以外も考えられているのでしょうか?もしくはプロモーション的に何か考えられているとか。

澤田 小説やアプリ以外の展開、プロモーションとしての展開については、まだ調整中です。リアルイベントも考えてはみたのですが、そもそものコンセプトが「ひとりでリアルタイムでなくても楽しめる」だったので、まあ、おまけ的にご縁があればやろうかな程度です。
ひとまずは小説とアプリ、そしてそこから広がる代替現実世界で楽しんでいただければと思います。

──ちなみにターゲット層とかはどのあたりをイメージされているのでしょうか?

澤田 基本は中高生ですね。

──ほう。その層って謎解きゲームは知っていても、ARGはまったく知らないと思うのですが、そのあたりに対して何か意識的にやっていることってあります?

澤田 ARGという言葉は使っていませんね(笑)
あとは問題を解く体験をしていただけるように具体的な思考や手順の描写をしたり、謎解きやARGで使われる専門用語についても、できるかぎり解説しています。

──なるほど。小説と謎解きという切り口で取り込みつつ、ARG的な楽しみを見つけてもらうみたいな感じですかね。

澤田 そうですね。ARG情報局でのインタビューということで、ARGという言葉を使って説明していますし、僕のコンセプトも「ひとりで遊べるリアルタイムじゃないARG」なのですが、それを読者に強要するつもりはないです。楽しかったなー、なんだこれ→ARGってのがあるのかぐらいの理解が得られればいいんじゃないでしょうか。

──それはとても大切ですね。
ARG原理主義的になって楽しめなかったら意味がないですし。

澤田 制作者しては、わりと原理主義に沿っているつもりなのですが、それをどうかみ砕いて楽しんでもらえるようにするかという点で「次のARGの形を目指した」つもりです。パソコン版大戦略に対するファミコンウォーズみたいな(笑)

──なるほど(笑)

澤田 ストイックなSEGAのアドバンスド大戦略にはいかない。個人的には、あれはあれで大好きですが(笑) そんな感じで軟派なようで実は硬派なARGです。

──ああ、それは分かりやすい例えですね。(笑)
では、「次のARGの形」として、ここは日本どころか世界初だろう、みたいな試みはありますか?これもネタバレになっちゃうかな?



澤田 これまでのARG的な小説のほとんどが、小説の書き手と謎やWeb上の仕掛けの制作者が分離していたり、海外の小説を翻訳する際にばっさりと周辺情報が切り落とされた結果、満足な情報がないまま、連動している形になっていましたが、今回はそれはないですね。小説の書き手が、そのままARGやアプリの中身や、そこから得られる全部の情報まで作っているのは、あまりないんじゃないかと思います。

──なるほど。たしかに澤田さん自身が書いているのだから、これほど強い方法はないですね(笑)。

澤田 次のARGの形という点では、最初の話題の繰り返しになりますが「小説の登場人物と同じ秘密を自分が追求できる」ARGの形を取りながら「リアルタイムで追いかける時間を気にしなくていい」のは大きいですね。僕の中ではARGのNetflix化と呼んでいますが。

──Netflix化ですか!(笑)

澤田 別にHuluでもいいんですけどね(笑)
実はARGをアプリでやるっていうのは、もう3年ぐらい前からいっていたんですよね。ついでにNetflix化というか、リアルタイム参加を切り捨てる必要性も同じ時期ぐらいからいっています。ARG的なもののアプリ化については、最近なぞともさんが始めましたが、コンセプト的なものは昔からあったんです。
でも、何年経っても誰も作りそうにないから作ろうかなあ、という感じで作り始めました。

──アプリでのARGとか謎解き方向って、どうしてもアプリがメインになっているのが逆に限界を感じるときもあるので、今回の澤田さんのアプローチ方法には注目しています。

澤田 ありがとうございます。謎解き的な問題を中心にアプリを作ってしまうと、どうしても物語的な体験の下地となる要素(プレイヤーとの世界観の共有)が弱くなります。既存のコンテンツ(アニメやゲーム、映画など)に頼れば、世界観を共有する手間は減りますが、それではオリジナルのARGにはならない。じゃあ、世界観も物語もアプリも、全部作ればいいんじゃね、という強引なアプローチだからこそできるものがあると思います。

──ちなみに、執筆ってどのくらいかかりました?

澤田 執筆にかかった時間は、なんだかんだで一年ちょっとになりますね。実際のところは、もっと早く出るはずだったのですが、本業でもいろいろと忙しい時期がありまして……(出版日の変遷をネットで検索してはいけません)

──では、最後に『ARG情報局』の読者にメッセージをお願いします。

澤田 そうですね。『ARG情報局』を通じて初めてARGに触れる人も多いと思いますので、そういった方がこの小説を楽しんでいただく方法として「小説に出てくるものは、まずネットや現実で探してみる」ことをぜひやってもらいたいですね。



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