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2015年6月20日

【ARG的ブックガイド】『フィニィ128のひみつ』

フィニイ128のひみつ (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
紺野 あきちか
早川書房
売り上げランキング: 604,156


結構古い本になりますが、ARGに興味のある人には楽しめそうな内容なのでご紹介します。
ハヤカワSFシリーズ・Jコレクションで、著者は 紺野 あきちか。

以下、Amazonにあった紹介文です。

『亡くなった叔父が遺したことば―「フィニイ128のひみつ」。その謎を追うわたしに届いたのは、熱狂的な参加者たちが全世界で展開するノンヴァーチャル・ライヴRPG『W&W』への誘いだった。剣と魔法にタイムトラベルと何でもありの設定をもとに、さまざまな派閥が相争う壮大なる“ごっこ遊び”。“光の戦士”となったわたしは、混沌とした虚構世界の危機を救うべく、いつしか奇妙な使命感に囚われはじめていた…。』

この物語、主人公の叔父さんが残した「フィニィ128」という謎の言葉を解き明かすため、主人公が行動を起こしていくのですが、次第に事件に巻き込まれ、『W&W』というライブRPGにその謎が関係していると分かります。不本意ながら主人公はそのゲームに参加し、調査を進めていくのですが、現実世界が次第に虚構のはずのゲームに侵食され……という展開になっていきます。

『W&W』では、架空の歴史年表や新聞記事が作られており、ARGが好きな人は思わずにやりとするかもしれません。この『W&W』というゲームは世界規模で展開されているゲームという設定で、こんなARGが本当にあったら、楽しいだろうなと思います。

文章全体がゲームブックのように細かい章分けがされており、章の数字は16進数で進んでいき最後は80、つまり、10進数の128で終わります。
ところどころ意味深な数字が出て来たり、思わせ振りな描写も多く、この本に隠された『ひみつ』については色々な説があるようです。
まあエンターテイメントなので、作者が意図してなかったとしても、面白い解釈で楽しんだ者勝ちかと思います。

ライブRPGについては、日本でも毎年夏にJGCというイベントで開催されていたり、フリーウェアゲーム製作で有名なアンディーメンテ主催の『Peace Island Park』という素敵なイベントがあったりします。
なかなか開催数が少ないですが、チャンスがあれば参加してみてはいかがでしょうか。

(文章:H.M.)

2015年6月17日

【ミニニュース】小説の後書きでARGの解説、映画『GAMBA』で参加型コンテンツ 他

またまた新しいコーナーです。ミニニュースという形で、速報的な情報をまとめて取り上げていこうと思います。

小説『人狼ゲーム CRAZY LIKE A FOX 』の後書きでARGの解説

人狼ゲーム CRAZY LIKE A FOX (竹書房文庫)
川上 亮
竹書房
売り上げランキング: 32,705

小説『人狼ゲーム CRAZY LIKE A FOX 』の後書きで、作家&ゲームデザイナーの土屋つかささんが小説の内容に関連してARGを解説しています。簡潔で解りやすくまとまった内容ですので、「ARGってどんなものか今一つ解らない」という人にもお勧めです。


『GAMBA ガンバと仲間たち』で参加型のスペシャルコンテンツ


昔のアニメとはまったく違ったキャラデザインで話題になっている映画『GAMBA ガンバと仲間たち』ですが、何やら参加型のキャンペーンを行っているようです。

雑誌『シアターガイド』で「今劇場で“謎解きがアツい!”」

シアターガイド 2015年 07 月号 [雑誌]

モーニング・デスク (2015-06-02)

演劇関係の雑誌『シアターガイド』の2015年7月号で「今劇場で“謎解きがアツい!”」という4ページの記事が組まれています。
謎解き要素のある参加型の演劇とお笑いライブが1つずつ紹介されており、『ミステリーナイト』E-Pin企画の城島さん、『リアル脱出ゲーム』SCRAPの加藤さんのインタビューも掲載されています。



雑誌『ブレーン』で「記憶に残る「体験」のデザイン」


ブレーン 2015年 07 月号 [雑誌]

宣伝会議 (2015-06-01)

マーケティングやプロモーションの雑誌『ブレーン』2015年7月号の特集は「記憶に残る「体験」のデザイン」。
ARGや体験型ゲームを扱ったものではないですが、ユーザーの体験感という点で参考になるイベントの事例がたくさん掲載されています。ゲーム関係のイベントですと、
『ドラゴンクエストヒーローズ』のプロモーションとして新宿駅で行われた「スライム10万匹討伐戦」なども取り上げられています。

(文章:石川淳一)

2015年6月10日

【海外ニュース】海外ARG事情紹介 2015夏

日本では、なかなかARGという形では定着しないまま、最初のブームから軽く5年ほど経過しました。もっとも、日本での低迷を横目に、北米ではこの間も様々なARGが実施されていました。そこで今回は、自分なりに把握している最近の北米ARGプレイヤーの動向や海外ARGをご紹介します。

■北米では、なんでもARGです。

ARGに関する情報では老舗のARGNet(http://www.argn.com/)を見ていただければ一目瞭然なのですが、北米では、いわゆる公演型の脱出ゲームや、街歩き型の謎解きラリーもすべてARGというカテゴリ内で語られています。これは、北米がいくつかのARGから流行が始まったことに対して、日本ではSCRAPさんのリアル脱出ゲームが流行の起点となったことによるからです。そして北米のARG動向を読み解く上で、実はここが大きなポイントです。

■短いARGもいいけど、ガッツリ遊べるARGはないの?

先ほど、体感型の謎解きゲーム全般が北米ではARGの1種類として認識されていると書きました。北米のARGプレイヤーは、これらの体感型謎解きゲームのうち、特にWebを中心に実施されるものを「ショートターム=短期ARG」とか「(体験の浅い)トランスメディアキャンペーン」と呼んでいます。(SCRAPさん系の形式は総じて "Escape Room Games" と呼んでいます)
最近は映画やテレビドラマの予告ARGの多くが、このショートタームARGと呼ばれる範疇に納まっており、北米のARGプレイヤーの間でも定期的に「オレはショートタームARGで遊びたいんじゃなくて、物語と連続性がありそうな凝ったARGで遊びたいんだよ!」という叫び声が投稿されます。このあたりの予算と実施の兼ね合いは日本より良い環境にあるとは言え、北米でも大きくは変わらないようです。

■北米ARGの発端は、やはりゲーム!映画!テレビドラマ!

最後に、僕が少し前からここ最近まで追いかけている海外のARGやARG的な仕掛けをご紹介しておきます。なお、現在のARGを語る上で筆頭に挙げられるであろう Ingressについては専門家が無数、いらっしゃいますので割愛します。

●テレビドラマ『Sherlock(シャーロック)』の登場人物Webサイト

ARGではなく、ARG的な手法の事例です。番組は、NHKその他でも放送され、人気も高い英BBC制作のテレビドラマですね。登場人物たちが更新しているWebサイトとして、ドラマ内にも何度か出ており、シリーズ序盤に話題性を持たせると共にドラマの世界観を現実にリンクさせる役割を果たしました。シリーズが売れてからは更新や追加がなくなってしまったことが残念です。
シャーロック・ホームズのサイト http://www.thescienceofdeduction.co.uk/
ジョン・ワトソンのブログ http://www.johnwatsonblog.co.uk/
法医学者モリーのブログ http://www.mollyhooper.co.uk/
第3話の被害者の公式サイト http://www.connieprince.co.uk/

●Hunt the Truth

ARGの歴史に残る名ARG "I Love Bess" で知られるマイクロソフト社のビデオゲーム『Halo 5: Guardians』のARGとして2015年の3月に開始された、ARGの要素をすべて盛り込んだ王道ARGです。今回のゲームはtumblr上に設けられたジャーナリスト "Benjamin Giraud" のページから始まりました。物語はエピソード00から始まり、2015年6月現在でエピソード11が実施中です。サウンドクラウドを活用するなど、新しいメディアの取り込みもぬかりなく、現在もっともスケールの大きなARGと言えるでしょう。
Benjamin Giraud の tumblr http://huntthetruth.tumblr.com/

●Batman: Arkham Knight

バットマンとARGと言えば、どうしても映画『Dark Knight』時に実施されたARG "Why so serious?" が挙げられてしまうのですが、こちらは2015年7月に発売されるビデオゲーム『バットマン アーカム・ナイト』のティーザームービー内に仕掛けられた暗号パズルで完結するショートタームARGです。とは言え、暗号が表示されるフレームはわずか1フレームと普通では見つけられないこと、暗号のデコードが難しかったことから、海外のARGプレイヤーの間で話題となりました。E3で次の動きがあるといいんですがねぇ。
Batman: Arkham Knight Trailer https://youtu.be/Ax2edKdZRxg
ネタバレ映像 https://youtu.be/O0EYhaRx3LE

●Who is Mr. Robot

USA Networkで2015年6月24日からシーズン1の放送が始まるテレビドラマ『Mr. Robot』のティーザーサイトで展開されている(現在のところは)ショートタームARGです。番組の内容が、昼はサイバーセキュリティエンジニア、夜はそのエンジニアスキルを使ってハッカーと化す主人公の周囲で発生する様々な事件を追う、サイコスリラーということもあり、こちらのサイトでも、そんなドラマの設定が反映されています。なお初期は情報量が抑えられていましたが、少しずつ増えています。
whoismrrobot http://www.whoismrrobot.com/
USA Network上の番組ページ(一部映像は再生できません) http://www.usanetwork.com/mrrobot
YouTubeの番組チャンネル https://www.youtube.com/channel/UCX5R2xqZWND8nJqGTvel3nw

●Junko Junsui

実はこちらのARGは、最近のものではありません。ゲームの開始は2009年。"Junko" と自らを呼ぶ女性が、Facebookの友達申請と同時に不可思議なメッセージを送り始めました。複製されたGoogleの検索ページには、ロシアと思われる場所の小部屋に囚われた彼女の妹がおり、ARGプレイヤーは彼女の妹を救うために様々な活動に取り組みました。セカンドライフ内で発見されたボット。様々な民族の歴史と神話の解析。暗号解読の数々。しかし、それらの活動は、2010年に突然の終わりを迎えます。削除されたすべての履歴、それを保管しようとするプレイヤーたちの活動。ゲームはそのまま終わるはずでした。
状況が変化したのは5年後の2014年10月。公開されたiPadアプリ "ALFA-ARKIV"には "Junko"に関する様々な資料が収録されていました。開発元へのリンク先は謎の映像につながっており、ウィキリークスには関連するALFA-CIPHERの記事がありました。秘匿暗号、ロシアの秘密組織、 暗躍するテロリスト。世相を反映した世界観は、確実に現実と虚構を境界線を打ち消そうとしてきます。ある意味、もっともARGらしいARGと言えるでしょう。
ALFA-ARKIV for iPad説明映像 https://vimeo.com/102361389
Wikileaksのページ http://wikileaks.las-sgg.cl/alfa-cipher.html


ARG情報局へのひさびさの寄稿は、なかなかの長文となってしまいました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(文章:澤田 典宏)

2015年6月2日

【ARGとの交差点】『ニンジャスレイヤー』の作者は誰?

ARG的な演出・手法は近年エンターテイメント業界のあらゆるところで活用され、成功をおさめています。
前回も書いていますが【ARGとの交差点】では、ARG-SIGメンバーのアンテナに引っ掛かった注目の作品、厳密にはARGではないけど参考になりそうなものをARGの視点から紹介・解説していきたいと思います。

今回のお題は『ニンジャスレイヤー』。
書籍は60万部を突破し、漫画は出版社を越えて3誌で連載、ニコニコ動画などでアニメも放送中です。
「これってARGと関係あるの?」という意見もあるかと思いますが、その成り立ちにまつわる見せ方について注目しております。

ニンジャスレイヤーとは?
ブラッドレー・ボンドとフィリップ・ニンジャ・モーゼズのアメリカ人2人によって書かれた小説、とされています。
それを2010年から本兌有、杉ライカを中心とした有志(翻訳チーム)によって日本語訳がTwitter上に連載されました。
その書籍版がエンターブレインから発売されたのは2012年です。

ちょっと間違った日本観と、独特の翻訳、そしてさまざまな特殊能力を持った忍者たちと主人公ニンジャスレイヤーによる復讐劇のエンターテイメント性の高さから多くのファンを虜にしました。

「この原作者の日本観間違ってるwでも面白い!」と思って原作についてネット上で検索してみますが、あまり情報は見つかりません。
このアメリカ人の原作者2人とアメリカ版の原作は本当に存在していたのでしょうか?
原作に関する情報を以下に少しまとめてみました。


●アメリカで出版されたニンジャスレイヤーについての紹介サイトのアーカイブ
2002年に存在していたようです。翻訳チームのメンバーが当時作ったのでしょうか?
http://web.archive.org/web/20021204015543/http://www.nnc.or.jp/~snah/forge/ninja/

●ニンジャスレイヤーのmixiコミュニティ
2005年から運営されているようです。
http://mixi.jp/view_community.pl?id=467346

●原作のサイトのアーカイブ
こちらは2011年からのようです。
http://web.archive.org/web/20110427090145/http://ninjaslayer.onlinewebshop.net/

●SFセミナー2012のニンジャスレイヤー翻訳チームインタビュー
http://togetter.com/li/298013

●原作者2人のインタビュー動画
http://www.nicovideo.jp/watch/sm26234942


原作者が本当にいるのかどうか?翻訳チーム自身が本当の原作者なのか?
その真偽は定かではありませんが、ニンジャスレイヤーが面白い作品であることは間違いありません。
2002年から仕込んでたなんてそんなことがあるのでしょうか?いや、きっと原作は存在していたに違いありません!
もしかすると、原作に関するエビデンスが今後も見つかるかもしれません。そういったところもニンジャスレイヤーの魅力の1つなのだと思います。
楽しみに待っていましょう。

(文章 H.M.)

関連リンク
ニンジャスレイヤー物理書籍公式サイト
『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』公式サイト
ニンジャスレイヤー - Wikipedia