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2019年9月27日

日本独自のイマーシブシアターの可能性『のぞきみカフェ』

画像:「のぞきみカフェ」個人的考察録より

少し前に『speakeasy OZ presents GRAND OPENING PARTY』を小規模イマーシブシアターの可能性と絡めてARG情報局で取り上げたのですが、考えてみると石川がTwitterで絶賛していた『のぞきみカフェ』を記事にしていない事に気づきました。

2019年5月23~26日に東京・原宿のカフェ行われたイベントで、もう4ヵ月以上経っているのでかなり今さら感はありますが、その内容を分析することは日本のイマーシブシアターや体験型ゲーム、トランスメディアストーリーテリングにとって非常に有意義じゃないかと思うので、改めてここに取り上げさせていただきます。

なお、本イベントはネタバレ解禁ではないので、細かい部分は製作者のきださおりさん自身がnote『「のぞきみカフェ」個人的考察録』に書かれている範囲を越えないよう、ややぼかした表現になっていることをご了承ください。
『「のぞきみカフェ」個人的考察録』はどのような意図でこのイベントを企画・制作したかがよく分かる内容なので、ぜひ本記事と合わせてお読みください。)

そして、何故か当日写真をぜんぜん撮っていなかったので、文字ばかりでごめんなさい!


■イベントの概要

まずは『のぞきみカフェ』がどんなイベントだったかの説明を。
男女4名が登場人物として順にカフェにやってきます。彼らはみな深刻そうな表情、会話をしていてとても困っていそうです。
参加者はそのうちの1人の近くに座って話や情報を「のぞきみ」し、その彼らの問題を理解し、場合によっては問題解決の手助けをする。
言葉にするとたったこれだけのシンプルなイベントです。


『のぞきみカフェ』は特にイマーシブシアターとは謳っていませんが、
  • 登場人物たちがそれぞれの物語を演じていること
  • 登場人物それぞれの物語があって、その物語を深く追えるのは1回に1人の登場人物だけ
  • 参加者が介入できる要素はかなり限定的
という点で、イマーシブシアターに近い構造をもっているかと思います。

石川が『のぞきみカフェ』を絶賛した理由は主に以下の3点です。
  1. 参加者の行動を不自然でない形で上手くコントロールしている。
  2. わずか1時間弱の公演内でしっかりとトランスメディアストーリーテリングが行われ、しかもそれが登場人物たちを助ける手がかりになっている。
  3. イマーシブシアター風でありながら1回参加するだけでも「何が起こっているのか訳がわからない」感がなく、しっかりと楽しませてくれる。
以下、それぞれの特長について分析していきたいと思います。

■特長1.参加者のコントロール

まずは1「参加者のコントロール」について。
「のぞきみカフェ」で参加者ができることは2つだけです。
  • 登場人物の会話や持ち物から情報を収集し、表面に見えていない悩みを探し当てること。
  • 登場人物に働きかけられるタイミングで登場人物に働きかけること
ここで重要になってくるのが(ネタバレになるので詳細を書けないのですが)参加者が登場人物に話しかける事をブロックする存在です。
この仕組みによって、ブロックされているうちは情報収集パート、ブロックが外れたらリアクションパートと、参加者はいますべき事に集中できます。

そのことによって、物語をしっかり伝えなければならない前半部で登場人物の演技が止まる事や、参加者が他の事に気を取られてリアクションパートになったときに情報不足で何をやればいいのか分からなくなる事を防いでいる訳です。

■特長2.トランスメディアストーリーテリング

参加者たちは偶然居合わせて登場人物たちを「のぞきみ」している訳ですから、謎解きの紙が渡されて登場人物の謎を解いたり、部屋中を探し回って証拠品を集めたりする事はあり得ません。
そこでどう登場人物たちの背景や問題点を理解するか。

まずは会話。隣の人の会話に聞き耳を立てる訳ですね。
さらには登場人物の持ち物。たとえば財布からちょっと覗いている免許証、消し忘れたタブレットから見えるLINEの会話、ガラケーの待ち受け画面…etc.

これらの情報をさらに検索すると関連するサイトやBlog、Twitterアカウントなどが見つかり、登場人物たちが困っている内容やその原因を見つけ出すことができる訳です。

こうした「リアルに存在するさまざまな情報源」から、その人物の背景や問題点、そして登場人物も知らない情報までもがくっきりと浮き上がってくる快感。
この時点でもう参加者は登場人物を助けたくってウズウズしています。ブロックが外れて登場人物に話しかけられるタイミングをいまかいまかと待ち受ける訳です(笑)。

特長1にも関係してきますが、登場人物に働きかけることのできる要素はそこまで多くありません。
悩みをどう解決するか、という構造なので、そこまで選択肢は多くないのです。
(意図的に悩みを解決しないという選択肢もとることはできますが、自分が参加した範囲ではさすがにそういう人はいませんでした(笑))

しかしながら、やれることが多くないことは逆に欠点になっておらず、むしろ取りこぼしを防ぐ良い方向に働いています。

また「やれることが多くない」からやることが画一化してしまうかというと、これが人間の面白い所で、例えばある登場人物に電話をかけるシーンで、自分が参加した3回はすべて電話をかけるタイミングや話す内容などに違いが出ていました。

■特長3.1回でもしっかりと楽しませてくれる

ここまで書いてきたように、このイベントの基本の構造は開始時に何らかの理由で困っている登場人物たちを助けて幸せにするという形式になっています。
なので、物語の向かっていく先がはっきりしていて、しかもハッピーエンドという多くの人にとって理解しやすく、納得できるエンディングになっているのです。

先に書いたように参加者は4人の登場人物のいずれか1人の隣にいるので、他の3人を「のぞきみ」ることは会話以外ほぼできません。
でも、他の3人も何らかの理由で問題が解決してハッピーになったことは分かる。「ああ、良かった!」と思える訳です。

イマーシブシアター系のイベントでよく起こる問題が
「あるルートにフォーカスしていたら、他で何が起こったかまったく分からなくて、結局全容もよく分からなかった」
というパターンです。
こうなると1回の参加ではダメで、複数回の参加が必要となってくる。でも、1回目が面白くなかった、よく分からなかった人が2回、3回と参加するでしょうか。

カフェの中でずっとイベントが進行していくという構造もプラスに働いています。
いわば1幕1ロケーションのお芝居な訳で、全ての登場人物や他の参加者が何をやってるか、基本的には全部見える訳です。
部屋がいくつもある大規模イマーシブシアターの真逆な訳ですが、そのおかげで
「何か物語の一部が見えなくてスッキリしないけど、その物語がいつどこで行われているのかすら分からない」
というモヤモヤ感は発生しないのです。

■見学者席も面白かった

ちなみに、登場人物をのぞきみできるのは1登場人物につき3人までなのですが(本当に普通のカフェでやっているのであまり沢山は隣にいられないのです)、他に見学者席というのがあります。


この席の人は登場人物たちから離れて座っているため「のぞきみ」できず、登場人物にも干渉できない、様子を見ているだけなのですが、見学者席ならではのメリットもあります。

たとえば、窓際の席の人は、登場人物がちょっとだけ外にいるシーンを見ることができます。
また、(ネタバレになるので具体的には書けないのですが)ある登場人物のラスト付近でカフェの店員に関連した、ちょっとびっくりするようなシーンが発生します。
2回の参加者を終えて、3回目はカフェのカウンターに近い見学者席に座っていた私は、その展開にいたるまでの流れをずっと見ていたのですが、そこはきちんと仕掛けを仕込んでいたのがよく見えて、とても面白かったです。

■終わりに

長々と書いてきましたが、『のぞきみカフェ』は一見シンプルでありながら、参加者にどのような体験を届けるか、そしてその体験をしてもらう為にどのような設計するか、とても良く考えられたイベントでした。
そして、日本独自のイマーシブシアターを考える上でも重要な作品だったと思います。

もし、再演や続編がある場合には、ぜひ参加してみてください。

(文章:石川淳一)

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