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2011年2月28日

ヴィッツARGを振り返って


1週間続いたヴィッツARGも、2月27日の最終奪還イベントで幕を閉じました。トヨタ×電通という座組も注目を集めたこの ARG を、プレイヤーからの感想なども参考にしつつ、レビューします。

サマリー

期間
2011/2/19〜2/27
規模
@misaki_sos の最終フォロワー数約2200人
制作
企画・WEBプロデュース: 面白法人カヤック電通, ARG監修: 慶應義塾大学経済学部 武山政直研究会, ARGプロデュース: オフィス新大陸
総評
ストーリー
トランスメディア
謎解き
ミッション
インタラクティビティ
参加者コミュニティ
驚き・感動度
現実探索感
代替現実感
運営



概要


謎解きを主軸とした1週間という短期のプロモーションARG。

謎出題用のサイトで、6日間で11回謎を出題し、プレイヤーの公式フォーラム上で謎解きを行わせた。一部の謎では、協力要素や、GPSでのチェックイン、トヨタのショウルームでのリアルミッションなども行われている。

登場人物の twitter や blog を用いての発信も行われていたが、ストーリーが大きく動いたのは最初と最後のみ。途中は、謎解きのみで進行する構造であった。

ラビットホールは、渋谷や名古屋で配られた犯行予告のビラ。本格始動後はテレビCMや駅貼り広告も行っている。

ファイナルイベントは、新木場近くの倉庫にプレイヤーを100〜200名程度集め、登場人物がリアルタイムで探索を行っているのを助けるイベントであった。Ustream でインターネット中継も行われている。

魅力


毎日の謎解きは、問題の質が高かったこともあり、参加者からの評価は高いようです。

1回の出題で数段階の謎を解く必要があるため、フォーラムで議論が持続し、盛り上がりを生んでいました。解答に似たような手法が何度か出てくるため、最初は分からなかったプレイヤーも、2回目では自分の力である程度解けるようになり、謎解きの楽しさをより多くのプレイヤーが堪能していたようです。

問題の内容も、数学や文学、音楽など、多様な知識が必要となるようにデザインされており、プレイヤーそれぞれの得意分野で貢献のチャンスがありました。

また、多人数ミッションは、謎解きでは貢献するのが難しいと感じているプレイヤーに参加してもらうために重要な要素ですが、今作ではバラエティ豊かでした。プレイヤーごとに異なるヒントを提示するものから、アクセス人数が必要なもの、複数人が実際の場所にヒントを取りに行かないと解けないものなど、運営の手間のかからない範囲で可能な仕掛けがよく盛り込まれていました。

一方で、既存のヴィッツのプロモーションを生かす手法も巧みでした。

もともとヴィッツのプロモーションで用意されていた大沢探偵事務所という設定が、背景設定を持ったストーリーと、「100のヴィ学」という使い勝手のよい名言集を提供していたこともアドバンテージではありましたが、きちんとそれを謎に絡めて、プレイヤーが能動的にプロモーションサイトの隅々まで探しに行く動機付けを行っています。ミッションの現地となったトヨタのショウルームの場所を、今回初めて知ったというプレイヤーも多いのではないでしょうか。

既存のプロモーションに対して、ARGを用いて接触する動機付けを行う、という利用法としては、お手本となる事例となるでしょう。

また、ARG においては、プレイヤーコミュニティのマネージメントがとても重要となりますが、その点に関しては、登場人物が積極的に公式フォーラムで参加者への応対を行っており、よい雰囲気作りと、没入感の向上に大きく寄与していました。

プレイヤーからの評判が良かったその他の点としましては、登場人物のキャスティングの魅力が上げられます。女性陣は謎解きの合間に華を添えましたし、特に、情報屋に扮したつぶやきシローは、知名度もさることながら、雰囲気作りとトークのうまさで場を支えました。また、ファイナルイベントにおいて、映像の向こうで登場人物たちが出口のシャッターを開けたと同時に、現地会場のシャッターも開き、実はいままですぐ隣にいたのだと分かる、という演出もプレイヤーに大きな印象を残したようです。

課題


日本ではまだ大規模なARGの実施例が少ないということもあって仕方がないのですが、幾つかの課題も見えています。

参加規模

まず、最も気になるところが、参加者の人数規模でしょう。すぐに見える数字としては、主人公キャラクターのフォロワー数の約2200名。vitzの懸賞目的でフォローした人もいるかもしれませんから、サブキャラの情報屋のフォロワー数で見ますと1100人強。テレビCMを打った上での数字としては、物足りなさを感じる方も多いかと思います。この数字を考える上では、以下の2つのポイントから考える必要があるでしょう。

1点目は、この数千名という数字が、実際にこのキャンペーンを注目していた人数と一致していたのかどうか。ARG には、参加者の周りに、参加者がプレイしている様子を見て楽しんでいる大きな層が生まれる性質があります。これはコアプレイヤー・アクティブプレイヤー・カジュアルプレイヤー・オーディエンスのピラミッド構造でモデル化されることが多いのですが、ARG のトータルのプロモーション効果は、その全体で評価する必要があります。

例えば、今回、謎を解答した先着100名が表示される仕組みだったのですが、公式フォーラムで謎解きに参加している人数は数十名程度なのにかかわらず、そのリストはすぐに埋まってしまっていました。また、500ユニークユーザーのアクセスでアンロックされるミッションは、平日正午前後という時間帯にもかかわらず、出題から1時間半程度で達成しています。このように「見えない参加者」が多いため、キャンペーンが実際にどのくらいの人数に波及したのかという効果測定は、各サイトのPVなどの内部資料がないと計りにくいでしょう。

2点目は、今回のテレビCMが、ARG プレイヤーを増やす手段として適切だったのかどうか、です。ARG はバイラルに特化していると言ってもよい性質を持っています。マスに短時間で面白さを伝えるのが難しい代わりに、深い熱中性があり、プレイしている人の周りを巻き込んでいく力があります。それを、無理に1週間という短期に押し込み、代わりにテレビCMで人を呼ぼうと発想したところに難しい点があったのではないでしょうか。

また、テディベアが盗まれたというカジュアルなCMと、歯ごたえのある謎解きコンテンツという中身のギャップもプレイヤーを取り込む打率を下げてしまった可能性があります。諸刃の剣ではありますが、ARG の認知度が低い現時点においては、同様にマスメディアで広告を打つにせよ、例えば、相棒や名探偵コナン、レイトン教授といった、その先のリッチな体験を予感させる有力IPと組むことで、飛躍的に入り口の状況が改善する可能性もあります。

なお、一般的な ARG プロモーションでは、この1週間でようやくラビットホールからの導入が終わった段階となります。この数千人のプレイヤーをタネにして、これから協力ミッションなどを次々と課していくことで、各プレイヤーの周りの人を巻き込んで注目を集めていく、数週間〜数ヶ月のフェーズに入るのが普通です。

ARG によるプロモーションの大きな利点である、プロモーション対象に対して深い親近感を持ってもらえるようになる、という点に関しても、何ヶ月も対象に触れ続けることでその真の効果を発揮します。ARG は、イベント密度にメリハリをつけることで、予算をある程度抑えつつ期間を延ばすことも可能です。テレビCMにかける予算を、期間を増やすほうに振った方が、より効果的なプロモーションが行えたのではないかと思えてなりません。

参考までに、かつてカンヌ国際広告祭でサイバー部門のグランプリを取った ARG「Why So Serious?」は、数ヶ月ごとに新規コンテンツをまとめて投入するという手法で15ヶ月間実施し、最終的に1000万人のユニークプレイヤーを獲得しています。

参加者から見た意見

さて、プロモーションとしての課題ではなく、参加者からの意見も幾つか触れておきます。

まず、フィナーレとして行われたリアルイベントに対する評価です。リアルイベントが終わった瞬間に TL 上では「もう終わりなの?」「すっきりしない」というコメントが並んでしまいました。これは、さまざまな要因があるのですが、まとめると「不完全燃焼」ということでしょうか。リアルイベントのクォリティは決して低いものではなかったものの、Ustreamで8台も中継画像を並べ、現地には100人からのプレイヤーが集まっている、という状況でプレイヤーが期待していた最終イベントに対する期待感の高さと、それがあまり生かされずにたったの1時間で終わってしまったという失望との落差が激しかったようです。また、ネット参加者向けには中継が尻切れトンボになり、現地参加者に関しては余韻に浸る間が一切無く「トヨタのキャンペーンにご参加ありがとうございました」のMCが入るなど、参加者が気持ちよく終われるお膳立てがうまくいかなかったことにより、キャンペーン全体の印象を決定づける最後の最後に傷をつけてしまった感もありました。

ARG の本編部分に関しましては、やはりストーリーの弱さが指摘されていました。今回は、挑戦を受けて、敵の作ったパズルを解かされているという構造ですので、パズルの内容にストーリー上の必然性はありませんし、敵の手のひらの上で踊っているだけとも言えます。一般的に ARG の没入感が高まるのは、物語上でぶつかっている障害を、皆で相談しながら創造的に解決していく、という体験を通してですので、ARG に対してそうしたリッチな物語体験を期待していたプレイヤーは、今回のゲームの構造設計に物足りなさを感じていたようです。

その他の指摘としては、平日の昼間に新しい謎が公開されていたため、参加できる人間が限られることへの不満と、一方で、その時間帯にプレイできそうな大学生が使っている携帯電話では、関連サイトが対応していないためにほとんど参加できないことへの疑問があります。ARGなら何でも参加するコアプレイヤーはともかく、どんな一般プレイヤーに遊んでもらいたかったのかのペルソナのイメージがつきにくいキャンペーンでもありました。

最後に、いまさら言うまでもないことですが、ラビットホールにスポンサーのロゴを載せる、プレイヤーが常駐しているハッシュタグにプレゼントキャンペーンのツイートを大量に流す、明らかに商業CMとしてARGの告知を放映する、ゲーム期間中にオフィシャルがまとめサイトを作る、といった手法は、激しく代替現実感を損ね、ARG の持つ魔力を大いに減退させます。日本のさまざまな現状を鑑みて、致し方ない部分もあるかと思いますが、損ねているものがあることは自覚しつつ、少しでもプレイ体験を向上させる方策を探し続ける努力はしていきたいですね。(まとめサイトをオフィシャルで作ること自体は、日本の現状では必ずやるべきだとは思っています)

まとめ


「美しすぎる謎の組織 "ggg"」に「盗まれたテディベアを取り戻せ!!」こと、ヴィッツARGは、トヨタと電通が ARG を行ったという実例として、日本の今後の ARG の展開に大きな影響を与えるのは確実です。ここで心配なのは、表面だけ見て ARG を分かったつもりになった人たちが、間違った先入観を持つことです。今回のプロモーション ARG は、ARG をよく分かっている制作者たちが、さまざまな制約の下で四苦八苦した結果、こういう形で着地させるしかなかった、という事例です。トヨタがやったからと、ARG=謎解きゲームのような安易な考えで追従して作っても、魅力あるプロモーションになりません。逆に、ARG は日本では駄目だ、と思い込んでしまうのも早計です。

今回のヴィッツARGは、あとに続くARG制作者に、とても貴重なサンプルを提供してくださっています。これを ARG の性質をしっかり理解した上で、分析する必要があります。おそらく、多くの人を巻き込むには期間がもっと必要ですし、その期間にプレイヤーの興味を持続させるには、短期で決着するパズルでは足りず、ミステリーやサスペンス的な物語の仕掛けが重要となります。また、写真や動画などのコンテンツをプレイヤー自身が投稿するような構造にして、コンテンツが勝手に増えていくように設計するのも大事でしょう。

事例を積み重ね、日本での ARG がより多くのプレイヤーに感動をもたらせるようになることを期待しています。もちろん、そのひとつの未来として、ヴィッツARGの続編が実施されることを、個人的にとても楽しみにしています。

最後になりましたが、制作者の皆さま、楽しい1週間をありがとうございました!

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