2015年1月7日

2014年体験型娯楽のトピック7選


(この記事は、えぴくすさん(@epi_x)に寄稿していただきました。)
去る12月某日、SIG-ARGの座談会にて、体験型娯楽を取り巻くトピックを持ち寄り、2014年を振り返りました。この記事はその時話された内容をまとめなおしたものです。

なお、自他の区別なく話していましたので、自薦的な内容が含まれることはご了承ください。また、筆者が自分の理解の範囲でまとめたものですので、内容に誤解などがあった場合は筆者に責があります。

座談会参加者(50音順・敬称略) 石川淳一(エレメンツ)・坂本犬之介(オフィス新大陸)・澤田典宏(レイ・フロンティア)・城島和加乃(E-Pin企画)・竹内ゆうすけ(ラ・シタデール)・戸崎茂雄・三原飛雄馬(バンダイ)・三宅陽一郎(スクウェア・エニックス)・えぴくす(記)



Ingress の拡大


ARGからは少し外れます(※)が、12月13日に一大イベントである DARSANA が実施された Ingress は、2014年に国内で大きな広がりを見せた体験型娯楽といえるでしょう。Ingress は、Google の社内ベンチャーである Niantic Labs が制作している、スマートフォンのGPS機能を使った陣取りゲームです(関連記事)。
(※:正確には Ingress は骨太のストーリーがある ARG でもありますが、残念ながら日本国内ではストーリーはあまり認識されていません。)

DARSANA については http://togetter.com/li/757547 にて竹内さんの実況ツイートがまとまっていますが、普段はバラバラに戦っている両陣営のプレイヤーが一度に集まって時間を区切って陣取り合戦を行うイベントです。極寒の中、5,000人ものプレイヤーが集まり、Ingressの広がりを可視化する機会となりました。

Ingress の興味深い点として語られたのは、リアルの場所と紐付いた遊びのため、地域コミュニティが確立されており、DARSANAのような集団戦においては、それが指示系統のユニットとなって各陣営の強い組織化が行われていたことでした。ゲームシステムのサポート無しに自然に地域コミュニティが組織化されていくというのは、リアルと紐付いたゲームならではと言えるのではないでしょうか。

一方で、DARSANA に関しては、運営のホスピタリティに対する疑問の声もありました。特に、開始早々に緑陣営の戦略で青森以南の日本全土が緑のフィールドに埋もれるという事件があったのですが、ルールの周知が十分ではなく、この時点で青陣営に出来ることが無くなったと勘違いした人も居たようです(実際には、この戦略でようやく五分五分の戦いになっていた。参考記事。もう少し実況的なことを全プレイヤーにフィードバックして、プレイヤーを楽しませる運営があってもよいのでは、という意見でした。

また、Ingress がさらにどこまで広がるかについても議論がありました。首都圏で5,000人集まったというのは初期の Ingress のマイナーさを考えれば信じられない数ですが、今後メジャーな遊びになるのかと言われれば、色々な意味で難しいでしょう。この点に関しては、そもそも Niantic Labs 自身も Ingress で全てのユーザ層にリーチしようとは考えておらず、2年後くらいを目処にポータル情報を API として公開し、誰もが自由に位置情報を使ったゲームを作れるようにする、という方針を公にしています。これを使った第2世代・第3世代の位置情報ゲームで、さらなるヒット作が期待されます。

Ingress はユーザIDと時刻と位置が組になったログが誰にでも見えてしまうため、個人情報という意味でもセンシティブな側面を持っています。また、リアルな場所で遊ぶが故に、様々な現実の事故とも隣り合わせです。第2世代以降では、こうした課題がどのように解決されていくのかも要注目です。

余談として、コロプラやケータイ国盗り合戦など、昔から位置情報ゲームは一定のファン層を掴んではいるのですが、Ingress も含めて、妙に年齢層が高いのはなぜだろうねぇ、という話もありました。なぜなんでしょうね。

実空間ゲーム「アートと少女を巡る冒険」


9月〜11月には、福岡アジア美術館で開催された“WATAGATA 福岡釜山アートネットワーク”の展示の一環として、実空間ゲーム「アートと少女を巡る冒険」 が実施されました。エレメンツの石川淳一さんが仕掛け人です。

石川さんがネット上で長期間展開する本格的なARGを運営するのは実は初めてだったということでしたが、FacebookとTwitterを中心に、実際の福岡でのリアルのイベントも織り交ぜつつ、少女とぬいぐるみを巡る物語が語られました。

実際実施した感想を伺うと、予想外のことがたくさん起こった、とのこと。Facebook と Twitter という食い合わせも悪く、福岡でプレイヤーが実際に行動するハードルも高かったようです。また、「実空間ゲーム」として実施しましたが、ゲームとついているせいか、「どうすれば参加できるのですか?」と良く聞かれたとのこと。SNS でコメントを付けるだけで参加したことになる、という感覚はなかなか理解してもらいにくいようです。

しかし、福岡での ARG の認知度は確実に向上し、そして、何より実施によるノウハウの蓄積は大きかったとのことでした。次回作も楽しみです。

余談ですが、美術手帖に載ったという話に、ひとしきりうらやましがられる一幕も。

なお、さらにアートよりのARGとしては、「常世東京」とプレイヤーから呼ばれているARGが11月から秋葉原を中心に実施されています(関連記事)。こちらはプレイヤー数を絞り込む代わりに、フィクションであることを明示しないスタイルを貫いているARGです。そのスタイル故に、制作者は今のところ不明ですが、龍宮学校の制作メンバーと重なっているようです。

参加型本格推理イベントの新たなスタイル


参加型本格推理イベントといえば「ミステリーナイト」が最古参ですが、E-Pin企画さんではミステリーナイトを堅実に積み重ねていく一方で、新たな試みも行われています。2014年は、そんな中で確かな手応えを感じた1年でした。

密室迷宮は、セガのコミュニティサイト it-tells 上で、推理ゲーム「密室迷宮殺人事件」の制作者や役者が参加しているコミュニティで起こった殺人事件を推理する、という入れ子構造の推理キャンペーンでした。コミュニティサイト上には実際に各登場人物の書き込みがされていくという構造で、この部分は ARG そのものですね。

また、ミステリーステージという新たなミステリイベントの形が出来上がりました。6月に行われた「ミステリーステージ 名探偵コナン 殺意の開演ベル」では、流線型ピーナッツという劇団の公演中に殺人事件が発生する、というもので、実際の劇場で演劇を観に来る感覚でミステリイベントに参加できるというものです。休憩時間の30分で推理できるよう、解答用紙は選択式になっていたものの、難易度が下がりすぎず丁度よい手応えになっていました。参加したコナンファンのお客様からの評判もとても良かったようで、参加型本格推理イベントの裾野を拡げる新しいフォーマットとなることを期待しています。

なお、劇団流線型ピーナッツにはしっかりと作られた Web サイトが存在しています。最近の E-Pin 企画さんのイベントでは、このように事前情報として ARG 的な手法を多く取り入れています。過去のイベントで作成したフェイクサイトは http://www.epin.co.jp/ の一番下の「マーケティング/ARG」というリンク集から確認できますので、ご興味がある方は一度ご確認ください。

また、もう一つ、手応えのあった事例として、「伊賀上野 謎解きミステリー紀行 幻の忍者殺人事件」 では、役者が出ない街歩き型のイベントでありながらも、物語を追って事件の真相を推理していくという新しいスタイルで(パズルに頼らずに)参加型のミステリイベントを作り上げられたということでした。

同様の、役者がいない常設街歩きミステリとしては、読売テレビエンタープライズの企画で、澤田典宏さんが制作し、6月に阿佐ヶ谷アニメストリートで実施された「金田一少年の事件簿R リアル捜査&推理ゲーム File1」も特筆すべきものでした。警察の捜査資料を模した分厚い冊子を購入して、あとは現地の捜査と聞き込みを行うという、ミステリファンにはたまらないイベントです。

「ミステリーナイト」は一晩中濃密な推理の楽しみを味わえる代わりにお値段が少々高め、という位置づけのコンテンツだったわけですが、こうしてバラエティが出てくると参加型本格推理イベントも裾野が広がりそうですね。

E-Pin企画さんは今後ともドラマに特化していきたいとのことでした。

世界が浸食される Substitutional Reality


理研で研究されている SR (Substitutional Reality; ややこしいですがこれも代替現実という訳語を当てられています) システムを応用したアトラクションがハウステンボスにあり、それがスゴい、という話。ナイトメア・ラボというそうです。

詳しく言うとネタバレになってしまいますが、現実と架空の光景がシームレスに切り替わっていって現実が浸食される感覚を体感できそうです。立体音響がさらに迫力を増す秘訣だとか。常設アトラクションというのは、SR のエンタメ利用にはぴったりの応用事例ですね。ちなみに、ホラーとのこと。

2014年は Oculus Rift やプロジェクションマッピングなど、mixed reality な技術の話題も多かったですが、こうした技術的に現実と架空を融合させるアプローチとの付き合い方は、ARG制作者によって様々です。

新しい体験を提供することに主眼がある制作者は積極的に取り入れていこうとする一方で、ストーリーテリングに重きを置く制作者は技術ドリブンでコンテンツを作ることには否定的だったりします。どちらが正しいという訳ではなく、クリエイトしたいものの違いですね。

3D小説「bell」


夏休みに第一部が、そして12月末に第二部が実施された3D小説「bell」は、読者参加型のweb連載小説という切り口から、新たなストーリーテリングに挑戦しています。

新規IPで、KADOKAWA × dwango × グループSNE の3社合同企画という触れ込みです。12月にはweb連載小説と読者の反応をまとめた書籍の1巻目が富士見書房BCより刊行されました。小説執筆担当は河野裕氏と河端ジュン一氏。制作・運営にラ・シタデールの竹内さんが名を連ねています。

3D小説はARGとは銘打っていないものの、読者がミッションをクリアすることで物語が進展していくストーリーテリングであり、極めてARG的なコンテンツと言えるでしょう。その上、第二部になって公式サイトが「制作者」の都合で閉鎖されたり、ドワンゴの担当者とのやり取りにプレイヤーが介入するなど、メタ構造にまで踏み込みつつあるようです。

作中のミッションとしては、第一部では、いわゆる謎解きにとどまらず、多数のイラストから物語を読み解いたりと多様でしたが、第二部では殺人事件に巻き込まれるなど、さらにバラエティに富んだ読者との関わり方にチャレンジしています。

読者とのインタラクションは Twitter で行い、その内容を反映した小説が準リアルタイムにニコニコチャンネル上のブログで公開される、という構造です。公式Twitterアカウントのフォロワー数は1,300人強。アクティブユーザ率は高めで、本編進行中は #3D小説 の流速はかなりのもの。Twitter を使った ARG の限界ぎりぎりなのかもしれません。後述するメカクシ団:ウォッチャーズではユーザコミュニティをクローズドな掲示板にしていますが、その比較も興味深いです。

座談会の席上の議論で、新しいフォーマットの遊びを作るときは、早く黄金パターンを見つけ出して、4行くらいで説明できる言葉に落とし込めるようにした方がよい、とのアドバイスがありました。3D小説の面白さを4行で説明するならどうなるのでしょうね。

メカクシ団:ウォッチャーズ


メカクシ団:ウォッチャーズは、大人気コンテンツ「カゲロウプロジェクト」を原案とした ARG で、8月中旬から9月下旬までの1ヵ月半にわたって実施されました。

このARGをベースに、3冊の書籍が刊行されることが大きな特徴です。すでに12月には、プレイヤーみずから自分たちの体験を書いた「妄想小説」をまとめた『メカクシ団:ウォッチャーズ アンソロジー~消失少女をめぐるひと夏の冒険譚~』が刊行されました。1月にはARG展開とプレイヤーたちの行動を日付順に追ったリプレイが、2月には物語の核心に迫るノベライズが立て続けにKADOKAWAエンターブレインBCより出版されます。

公式Twitterアカウントのフォロワーは最大期7,000人を超え、プレイヤーのメインコミュニティだった公式サイトや掲示板への参加者はさらに多く、国内のARG事例としては非常に大きな規模となりました。また、下は小学生の女子から上は40代の男性まで、幅広いプレイヤー層を獲得したことにも注目されます。特徴の一つであるプレイヤーによる「妄想小説」ミッションには、書きたい人、登場させてもらいたい人などがすぐに集まり、活発にコミュニケーションが取られていたようです。

早いテンポでミッションや投稿テーマを投下しプレイヤーの没入感を継続させるARG設計、濃密かつ直接的にプレイヤーとかけ合うパペットマスタリング、参加者個々ではなく集団・同時に体験を共有するライブ感などの施策が、多種多様なプレイヤーを獲得し得た要因でしょう。

企画・制作・運営はオフィス新大陸。 ARG のビジネススキームとして、1つの成功事例を確立できた手応えがあるとのことでした。既存IPを使ってARGを実施し、そのARGから書籍や商材を派生、販売するというのが大枠です。今回のケースでは3冊の書籍がそれであり、他にもシリコンバンドやかけかえジャケットタンブラーなどのグッズも販売され、好評を得ています。

また今回の事例では、テーマとなる小説やアニメ、マンガが希薄になる期間に、 ARGがリリーフ的な役割を果たせることも示されました。例えばアニメの放送が終了し、次のクールが始まるまでの期間や、小説・マンガの続巻が出るまでの間、ARGを実施することでテーマのコンテンツそのものの継続性を支えることができるとのことです。欧米では同じ効果を狙って、テレビドラマのシーズン間でARGが実施される事例がありますが、その日本版となるでしょうか。

実際に、このARGの実施はアニメの放送が終了し、小説も続巻までの狭間でしたが、ARG公式Twitterや掲示板に毎日熱烈な投稿が寄せられ、のみならず「カゲロウプロジェクト」それぞれのコンテンツについても話題が途切れることがありませんでした。

オフィス新大陸さんは2015年も幾つか ARG 制作の予定があるとのことですので、楽しみですね。

体験型謎解きイベントの今とこれから


最後に、ARGから少し離れて、謎解きイベントについても話題となりました。2014年、体験型謎解きイベントは様々な企業やコンテンツとのコラボレーションで大きく華やかな年になったことは間違いありません。一方で、「あたらしいもの」というくくりから外れてきてしまっている雰囲気も感じられます。

現在、体験型謎解きイベントの制作費は高い水準になっています。新しいから、話題性があったから、というだけの理由で謎解きイベントを試してみたクライアントは、費用対効果のより良い(体験型娯楽としてはよりつまらない)企画に移っていくことになるでしょう。

また、専門の制作会社に頼むと制作費が高い反動か、学生謎制作団体への発注が多い年でもありました。しかし、そういったサークルも横の情報共有がしっかりしていますので、そろそろ身持ちも堅くなっているところです。

2015年は、企業とのコラボという観点では、体験型謎解きイベントとコラボすることで本当に効果を得られる企画のみが残っていくようになる年になるのではないでしょうか。ここで価値を示し続けられるかが、ひとつの正念場であろうと思います。

もちろん、企業コラボと関係ない、謎解きファンに向けた公演は今まで通り続いていくでしょう。こちらについては、飽きとの戦いということになります。今のところはまだ大丈夫そう、という感じでしょうか。

謎解き単独でのマネタイズという点では、ナムコのなぞともカフェは極めて興味深い業態です。10個の謎解き部屋(キューブ)を備えたカフェで、現在は新宿と渋谷の2店舗が営業しています。1プレイ765秒で1080円。各キューブは中小規模の謎制作団体が制作しています。これが各都市に広がっていき、かつ、固定客が付くような状況になれば、もう少し広い市場が見えてくるのですが、どうなるか。期待です。(地方都市のアジトオブスクラップの状況を見る限り、楽観はできませんが……)

まとめ


2014年は、3D小説「bell」とメカクシ団:ウォッチャーズが奇しくも同じタイミングで実施され、書籍販売をマネタイズとしたARGの試みに期待が集まる年となりました。2015年はこの調子で日本ならではのARGの定着に向かえるのかどうか。楽しみな1年となりそうです。

また、体験型謎解きイベントがメジャーになってきたことにより、引き続き、体験型娯楽全体へ興味が向けられている状況です。一過性の流行で終わらせないよう、バラエティに富んだ提案をして、娯楽として定着させていきましょう。

2015年もよろしくお願いいたします。

関連リンク
ARG情報局: 体験型エンタテインメント 2010年 総まとめ
ARG情報局: 体験型エンタテインメント 2011〜2012 総まとめ

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